日産エクストレイル20GT(4WD/6MT)【試乗記】
「SUVはディーゼル」の時代、再び? 2008.10.23 試乗記 日産エクストレイル20GT(4WD/6MT)……344万2350円
クリーンディーゼルが需要の高まりをみせそうな昨今、その国産第一号として船出した「エクストレイル20GT」。その第一印象をお伝えする。
気分ゆったり和み系
テストした結果を総括すれば、ほとんど予想した通りだった新型「エクストレイル20GT」。もはやヨーロッパの新車の半分以上が新世代ディーゼルになった中で、どれもこれも優等生なのが現状だ。
すでにエクストレイルも、ヨーロッパ向け輸出仕様車にはディーゼルがあって、広く歓迎されている。だから、あらためて腰を抜かすほどの衝撃などあるわけがない。黒煙を吐く旧世代が舞台を去ってから、すっかりディーゼルとの縁が薄くなってしまった日本だが、もともとSUVやミニバンには適した性格のエンジンだけに、その価値を知るユーザーには、好感をもって受けいれられるのではないだろうか。
乗ってみると、こんな感じだ。やはり最も印象に刺さるのは、2リッターという排気量からは想像もできないほど余裕たっぷりの低回転トルクだ。36.7kgmの最大値(普通のガソリンなら3.5リッター級に匹敵)は2000rpmで出るが、体感としては1500rpm以下から3000rpm以上までほとんど同じに思えてしまう。高いギアのまま、そのへんどこでも軽く踏むだけで、オオッと驚くほど背中を押してくれる。
だから郊外の一般道なら常に5速か6速、市街地でも流れてさえいれば4速以上でスルスル行けてしまう。この余裕感に慣れてしまうと、運転する気分までゆったり和んでしまうのは本当で、せかせかした性格まで治してくれそうだ。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
不可能を可能にした触媒
当然これは燃費にも効く。あらゆる熱機関の中で最高の効率を誇るディーゼルだが、それを積むエクストレイルの10・15モード値は15.2km/リッター。これなら実用平均で10km/リッターは堅そうだから、65リッターのタンクを利して700km近い航続距離を持つ計算になる。さらにその効能を強調したければ、4500rpmのレッドゾーンを3500rpmあたりまで引き下げてしまうのもおもしろそうだ(高回転まで引っ張っても、頭打ちのじれったさが出るだけだし)。
いや、クルマはエンジンだけでは語れない。この好印象には、全体の完成度も大きく貢献している。もともとオンロードで乗用車さながらの走行感覚を発揮し、乗り心地なども高水準のエクストレイルだが、同サイズのガソリン4気筒より90kgも重いディーゼルを鼻先にぶら下げながら、その悪影響がほとんど出ていない。ちょっと攻め気味の時、コーナーの出口で外に引っ張られるかなという程度だ。細かい穴も徹底的に塞ぐという努力の甲斐あって、エンジンルームからの音も、いかにも二重三重の壁の向こうという感じだ。むしろ耳につくのは、タイヤ(ダンロップ・グランドトレック)のパターン音だったりする。
それより注目は、これが現在のところ世界で最も厳しいとされるディーゼル規制(いわゆるポスト新長期規制)の適合第1号車だということ。微粒子はともかく、窒素酸化物(NOx) をどこまで低減できるか、最初は不可能と見られていた規制値だ。それに対して尿素水溶液を噴射するなど嵩張る装置ではなく、まるで手品のように自ら処理要素を生成するNOxトラップ触媒を開発したのは大手柄と言える。
こういう実例が生まれた以上、これから続々と発売されるはずのライバル車は、さらに進化する義務を負うことになる。そんなきっかけを作った点でも、新型エクストレイル・ディーゼルの存在意義は大きい。このM9R型エンジンの原型はルノーで、実際の製造もフランスで行われているが、日産が開発した環境対応技術は、やがて訪れる次期ヨーロッパ規制(EURO 5)のためにも役立つはずだ。
将来的にはAT追加も期待できる!?
そこまで評価したうえで、あえて不安材料を探すとすれば、日本のユーザーの反応が気になる。昔より格段に静かでも、やはりガソリンほどではなく、始動時やアイドリングでは、軽くゴロゴロとディーゼルらしい響きが聞こえてしまう。ヨーロッパでは誰も気にしないが、こういうことに日本人は厳しい。使ってみての真価を理解してもらえるまで、粘り強く訴える努力が必要かもしれない。
その点では、現状で6段MT仕様しかないのもマイナスだ。とりあえず発売直後いきなり想定を超える1000台の受注があったというが、その先さらに広がりを期待すると、やはりATは不可欠だろう。MTのみになった裏には、ムラーノの大トルク対応CVTではエクストレイルのエンジンルームにおさまらないとか、トルク特性の違いでスチールベルトの耐久性が心配だとかの理由が囁かれているが、実際にはすでにATも搭載可能になっているらしい。
ただポスト新長期規制対策を進めながら発売も急いだため、すぐ使えるMTに的を絞り、そこを逆手に取って「GT」と名付けたのが真相のようだ。ただし、エクストレイルの特技であるオフロードではATのありがた味も捨て難いし、次に快適系多用途車のデュアリスなどをディーゼル化するなら、やはりATなしというわけには行かないだろう。
ともあれ、日本国内向けの新世代ディーゼル第1号として船出したエクストレイル20GT、これからの活躍ぶりに注目したい。
(文=熊倉重春/写真=小河原認)

熊倉 重春
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。



































