トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“ランドスケープ”(4WD/6AT)
冬が来る前に 2024.06.28 試乗記 「トヨタ・クラウン クロスオーバーRS」に特別仕様車“ランドスケープ”が登場。赤いマッドガードやオフロードタイヤによってオフローダー風に仕立てられているが、果たしてその実力は本物か。オンロードとともに多少のダートも走ってみた。雄大なネーミング
私たちの若いころは車高といえば下げるものだったが、近ごろは上げるのがトレンドらしい。本格的なSUVまでは要らないが、ちょっとだけアウトドア風味も欲しいという気持ちはオジサンにも分かる。ちょうど2年前に全4車型で発表された新世代クラウンシリーズだが、そのうちステーションワゴンの「エステート」がまだ発売されないうちに、最初に投入されたクラウン クロスオーバーシリーズが早くもマイナーチェンジを迎えた。それを機に追加されたモデルがその名も“ランドスケープ”である。この種の車高アップ版には「アウトバック」や「オールテレイン」などいろいろとあるが、そのなかでもひときわ雄大なネーミングである。
“ランドスケープ”の仕立てはいわば定石どおりである。2.4リッターターボハイブリッドを搭載する「RS」(マイナーチェンジで“アドバンスト”や“レザーパッケージ”などは整理された)をベースに、車高をちょっと上げて(+25mm)ホイールアーチにスクラッチガードの役目を持つオーバーフェンダーを装備。タイヤも特異なサイズの21インチから245/60R18のオールテレインタイヤ「ヨコハマ・ジオランダーA/T G015」に変更、さらにはマッドガードやトーイングヒッチなどのタフネスを演出する特別装備を備えたオフロード志向の特別仕様車である。しかも2024年いっぱいの受注に限る期間限定モデルだという。人気モデルをいくつも抱えるトヨタはいわゆる“転売ヤー”対策に苦心しているはずなのに、またぞろ限定モデルとはこれいかに、という気もする。市場の反応を探るためのリサーチなのか、あるいは予定より遅れているクラウン エステートの登場までの中継ぎなのか、などといろいろ勘繰ってしまう。
このぐらいがちょうどいい?
ボディーカラーは「ブラック×アーバンカーキ」の専用2トーン色、フェンダーモールには「GORI GORI BLACK(ゴリゴリブラック)」なる特殊塗装が施されている。なぜかアルファベットで表記されるこれは表面にザラツキを残した塗装で、このフェンダーガードのために全幅はRSに比べて40mm広がっている。ただし同じように傷がつきやすいはずのバンパー下部やサイドシル部分はツルツルのブラック塗装のままで、正直ちぐはぐさが気になる。
リアフォグランプも標準装備されるが、いかにも普通に後付けされた雰囲気だ。ボルトなどをあえて露出させてたくましさを演出する手法もあるが、ごく普通のねじではちょっと興ざめ、マッドフラップの取り付けもちょっときゃしゃな感じがする。オフロード好きの昭和オジサンは本物度にうるさいのである。そのマッドフラップやヒッチカバー、専用アルミホイールのセンターキャップにもクラウン伝統の王冠マークがいたるところに付けられている。当初は王冠マークは控えめだったはずなのに、まるで宗旨替えしたかのような大盤振る舞いだ。
全高は前述のように25mmアップしてRSの1540mmから1565mmへ、また最低地上高はベースモデルの145mmから172mmへ拡大しているという(社内測定値のため5mm刻みではない)。
いろいろとちぐはぐだ
それ以外の専用装備は“ランドスケープ”のみリアシートのバックレストが分割可倒式トランクスルーになっていることぐらい(RSはセンターアームレスト部分のみスルー)。ただし、その代わりというべきなのか、“ランドスケープ”にはスタンダードのRSに標準装備となるいくつかの装備が用意されない。例えば、パワートランクリッドやドアおよびトランクリッドのイージークローザー、さらに安全運転支援装備のうちのいくつか(緊急時操舵支援、フロントクロストラフィックアラート、アドバンストドライブ、ドライバーモニターカメラなど)も備わらない。せっかくマイナーチェンジで装備を充実させたのに、わざわざ一部を省略するなんて、もちろん何か理由があるのだろうが、そんなところでなぜ差をつけなければならないのかふに落ちない。
「デュアルブーストハイブリッド」なるクラウン最強のパワーユニットと「E-Fourアドバンスト」と称する電気式4WDは標準型RSと同じ。すなわち2.4リッター4気筒ターボエンジン(最高出力272PS/最大トルク460N・m)とモーター(82.9PS)をフロントに、リアにはパワフルな水冷式モーター(80.2PS)を搭載し、システム最高出力349PSを生み出す。後輪はリアモーターで駆動する電気式4WDで、後輪操舵システムの「DRS」も標準装備される。いっぽうでオフロード用の駆動モードなどは用意されず、メカニズム面はスタンダードなRSと事実上変わらない。
ゆったりおおらか
この種のクルマの経験豊富な方にはちょっと中途半端で子供っぽく見えるかもしれないが、乗ると意外に快適で、一気に点数が高くなる。もともとスポーツセダンというには大柄で車高が高く、SUV風味であるからこそのクロスオーバーだが、“ランドスケープ”は明らかにゆったりと緩やかに上下動する足まわりで、セダンの乗り心地を思い出した。「スポーツ」モードを選べば多少引き締まるが、それでも従来のクロスオーバーに比べればコンフォート志向である。このぐらいおおらかなほうが“ランドスケープ”のキャラクターにはふさわしい。
ちなみに今回のマイナーチェンジではスタンダードのRSも含めてスポーツとの違いが分かりにくかった「スポーツ+」モードが廃止され、代わりに「リアコンフォート」モードが加わっていることから、全体的に乗り心地を見直したのかもしれない。トヨタのフラッグシップたるクラウンには、スポーティーなハンドリングよりも快適性や洗練度が求められて当然である。とはいえ、オールテレインタイヤをいじめない範囲ではDRSのおかげもあって決して鈍重な感じはしない。いかにもゴツイ見た目のタイヤを履きながら、ロードノイズが抑えられていることもさすがといえる。
本当のオフロードに乗り入れる人がいるとは思えないが、積雪地域に頻繁に出かけるドライバーにとっては(トヨタの最新ハイブリッドとは思えない燃費がネックかもしれないが)、確かに気になる存在だろう。期間限定ならばRSだけではなく、2.5リッターハイブリッドモデルにも設定して市場の反応を見てもいいのではないか。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“ランドスケープ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1880×1565mm
ホイールベース:2850mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:272PS(200kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:82.9PS(61kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:80.2PS(59kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:349PS(257kW)
タイヤ:(前)245/60R18 109H XL/(後)245/60R18 109H XL(ヨコハマ・ジオランダーA/T G015)
燃費:15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:685万円/テスト車=697万7820円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ロイヤルタイプ>(5万0600円)/前後方2カメラドライブレコーダー(4万4220円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1253km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:320.3km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。

















































