BMW X2 M35i(4WD/8AT)
Sに過ぎるM 2019.07.08 試乗記 BMWの都会派クロスオーバー「X2」に、最高出力300psオーバーの高性能モデルが登場。「かつてない領域へとドライバーをいざなう」とうたわれるその走りは、多くのユーザーを満足させてくれるのか、それとも……?数字からして全然違う
X2にも「Mパフォーマンス」バージョンが加わった。シリーズ最高性能モデルに位置づけられる「M35i」だ。
BMWのグレード名で「35」といえば、直列6気筒かなと思わせるが、FFプラットフォームのX2 M35iに載るのは、横置きの4気筒2リッターターボ。X2の既存2リッターモデルを始めとして、BMW各車に広く使われているB48型ユニットを最高出力306ps、最大トルク450Nmにまでチューンしている。スポーツカーのZ4/スープラ兄弟用のB48でもマックス258psと400Nmだから、さすが“Mパフォーマンスもの”といえるだろう。
おさらいすると、2018年春に国内導入されたX2はX1とX3との間隙を埋めるまったく新しいSUVである。いや、BMWは昔からSUVという言葉を使わない。X2のコンセプトネームはSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)。つまりX4、X6と同じカテゴリーだが、見てのとおり、X2はこれらSAC前2作とはデザインテイストが異なる。ルーフは平らで、ボディー全高は、タワーパーキングOKの1535mmに収まり、クロカン的なSUVっぽさはますますもって希薄だ。最近、X2は都内でもたまに見かけるようになったが、たしかに新種のスポーツBMWと思わせる“押し出し”がある。
車名に「xDrive」は付かないが、M35iの駆動系は4WD。価格は684万円。439万円の1.5リッター3気筒FFモデルから始まるX2シリーズのなかではもちろん最高峰である。
お客になびかぬキャラクター
過去に試乗したX2は、「xDrive20i MスポーツX」(Xが多過ぎ!)である。走りも居住まいも新鮮で、たしかに5ドアハッチバックの形と実用性を持つスポーツクーペ、と言いたくなるような、新しいスポーティーさに好印象を受けた。
そのX2をMパフォーマンスがどう料理したのか。期待して走りだしたM35iは、硬かった。20i MスポーツXの足まわりも硬めには違いなかったが、M35iの「Mスポーツサスペンション」は、輪をかけてスポーティーだ。荒れた舗装路だと、19インチのピレリがややバタつくし、剛性感の高いボディーが上下に揺すられることもある。開発時にはニュルブルクリンクで走り込みを重ねたというだけあって、明らかに乗り心地よりも操縦性を優先させたチューニングである。週末のNo.1ドライバーはクルマ好きの御主人でも、ふだんはイノセントな奧さんが買い物に使う、なんていうケースだと、ちょっとスパルタンに過ぎるかもしれない。
最近のフォルクスワーゲン&アウディやメルセデスは、たとえ高性能モデルでも操作系の手応え足応えを軽く、やわらかく躾けて、運転の口当たりをよくしようと努めているが、BMWとポルシェはこの波に乗っていない。
X2 M35iもまさにそうで、操舵力は「コンフォート」や「ノーマル」モードでもずっしりした手応えを失わないし、ブレーキペダルの踏み始めにはしっかりしたバネ感がある。FFプラットフォームに移行したからといって、大衆路線に踏み入れたわけではない、と思わせるこうしたキャラクターは古くからのBMW愛好家には支持されると思う。
FFらしさが見える場面も
306psで加速するM35iの「0-100km/h」は、4.9秒。“この下”の20i(192ps)は7.4秒というから、別格である。速いのはあたりまえだ。速さの演出もノーマルの2リッターモデルより過激で、排気音はけっこう勇ましい。冷間スタート時の咆哮やファストアイドルの音量も、4リッター級のスーパースポーツに負けていない。
FFユニット用のxDriveは、通常走行時だと100対0の前輪駆動。後輪へのトルク分配はオンデマンドで行われ、最大で50対50になる。考えてみると、FFプラットフォームBMWのオーバー300psに試乗したのは、これが初めてである。2014年の「2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラー」を皮切りに、BMWのFF作戦は着実に進行中で、来たる新型「1シリーズ」もFFになる。
これまでに試したFF系BMWにとくべつFFっぽさを感じたことはない。FRでもFFでも、走りの上でBMWクオリティーは変わらないと思っていたのだが、さすがに306ps/450Nmの大物となると、フル加速中などにパワートレイン系のキックバックがステアリングホイールに伝わることがある。BMWも人の子だなあと思った。
実用性はまずまず
約570kmを走って、燃費は10.6km/リッター(満タン法)だった。車重1.7tに近い300ps級クロスオーバーとしては優秀だろう。
最低地上高はX1とほぼ同じ。着座位置(視点)は、並のセダンよりほんの少し高い。しかし屋根は低め。逆にウエストラインは高めだから、たしかにクーペっぽいタイト感はある。リアシートの頭上空間は潤沢ではないが、荷室はそこそこ広い。
ボディーの使い勝手で、ひとつ気をつけなくてはならないのは、リアドアの後端が“くの字”型に突き出ていること。あせっていると、出入りの際に体をぶつける。というか、今回もまたぶつけて後悔した。
個人的には192psモデルで十分以上だと感じるし、クルマとしてのまとまりも上である。Mパフォーマンスなら、乗り心地などの快適性ももう少し洗練させてもらいたかった。しかし、何はともあれ、X2もMでなきゃという人のチョイスがM35iである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
BMW X2 M35i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1825×1535mm
ホイールベース:2670mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306ps(225kW)/5000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W/(後)225/45R19 92W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:--km/リッター
価格:684万円/テスト車=710万9000円
オプション装備:ボディーカラー<サンセット・オレンジ>(9万4000円)/パーフォレーテッド・ダコタ・レザー(17万5000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2312km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:570.7km
使用燃料:54.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/9.7km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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