BMW M2コンペティション(FR/7AT)/M2コンペティション(FR/6MT)/M5コンペティション(4WD/8AT)
拡大戦略の申し子 2018.08.23 試乗記 走り好きをうならせる“BMW M”のラインナップに、より動力性能を高めた2モデル「M2コンペティション」「M5コンペティション」が登場。標準モデルでも十分に高かったパフォーマンスはどのように進化したのか? その走りをスペイン・マラガから報告する。走り好きの“ツウ”に向けた存在
相変わらず広範な支持者から絶大な人気を得ているメルセデスAMGに対して、BMWのMはというと、ラグジュアリー化も適当に進んでいるにも関わらず、いまだ“ツウの極み”といった印象が先に立つ。ステータス性ではAMGの後塵(こうじん)を拝しているようにみえるが、その一方で、クルマ運転好きからの評価は絶大。個人的にはもう少し人気が出てもいいと思うのだが。
とはいえM社としては日和(ひよ)ることなく、その“運転好きツウのための駆けぬける歓び”づくりを諦めるつもりも毛頭ないようだ。日本でもこの秋以降、これが初投入となるMモデル「M2コンペティション」「M3 CS」「M4カブリオレ」「M5コンペティション」などが続々と上陸予定である。
コンペティションやCSなどと連なった車名を見て、ちょっと「ややこしいな」と思われた方も多いことだろう。ここではまず、Mを中心としたグレードヒエラルキーをいったん整理してみたい。
まずは、量販モデルとしての各シリーズが存在する。「3シリーズ」や「X5」といったノーマルモデルである。それらを基本に、見栄え(内外装)のみでMの世界を表現した仕様が「Mスポーツ」だ。さらに、アシまわりなどのチューニングにM社が関わったグレードが「Mパフォーマンス」。その上に、ようやく「M3」や「X5 M」といった“M”のノーマルモデルが現れる。
多層化する“M”のラインナップ
そこまでは、いいだろう。問題は、最近になって追加された、さらにその上のグレードたちだ。
“ノーマルM”の上には「Mコンペティション」が位置する。Mモデルのラグジュアリーさはそのままに、エンジンをパワーアップし、アシまわりなどもチューニングしたグレードだ。次に、いっそうスパルタンで、サーキットにも向くとM社が主張するのが「M CS」グレードとなる。CSの意味は「コンペティションスポーツ」。そう書けば、“コンペティションの上”であることも理解しやすい。そして最後に、「M4」のみに存在した限定車の「GTS」。これが最も硬派で、エアロデバイスもフルに装備される、サーキットに最も近い仕様である。
余談だが、BMW好きにとってのCSといえば「クーペスポーツ」で、70年代の名車「2800CS/3.0CS」などを思い出す人も多いことだろう。そして、その上にはさらに“軽量”の称号を与えられた「3.0CSL」があった。「M4 GTSに代わって『M4 CSL』という最強バージョンが近々登場する」というウワサもあるが、それはそんな“故事”にちなんだもので、あながち無いハナシではないと思う。
整理しておくと、ノーマルから順に、Mスポーツ→Mパフォーマンス→(普通の)M→Mコンペティション→Mコンペティションスポーツ(CS)→GTS(=CSL)、というのが、最新M事情なのだった。
最大の違いはエンジンにあり
スペインはマラガ近郊のプライベートサーキット“アスカリ”で、この秋以降、日本に上陸予定の新しいMモデルをイッキに試乗する機会に恵まれた。中でも、M2コンペティションとM5コンペティションについて、今回は報告しておこう。
まずは、M2コンペティション。程よいサイズのドライビングファンなクーペとして大人気の「M2」。3ペダルMTもあって、ビーエム好きからは“これぞわれらのM3”との呼び声も高い。けれども実はエンジンが、Mモデルとしては異例なことにM専用品ではなかった。M用パーツをふんだんに使った高性能エンジンではあったけれども、型式名はあくまでも「N55」。つまりノーマルやMパフォーマンスと変わらない。「M2コンペティション」になってようやくM3やM4と同じ「S55」を積んだというと、マニアは喜ぶだろうし、既存のM2オーナーは悔しがることだろう。ちなみに最高出力&最大トルクは、40psと50Nmアップの410ps&550Nmだ。
もっとも、アシやシャシーの変更は、アクティブMディファレンシャルやDSCのセッティングなど最小限で、見た目にもMミラーや新デザインの19インチ鍛造アロイホイールなど、違いはごくわずか。ツウなら、エアの吸入量を増やすべくエプロンをあえて小さくした、フロントバンパー左右のダクトまわりの相違点にも気づくだろうか。
差を感じたいのならサーキットへ
実際、一般道を軽くドライブする限りにおいて、乗り味的にM2との顕著な違いを感じることはなかった。もちろん、1割アップの力強さは感じるものの、そもそもM2でもサイズの割にトルクの乗りのいいクルマだったから、「S55でなければ!」とまでは思うに至らない。それよりもむしろ、峠道やカントリーロードでは、相変わらず心が勝手にワクワク浮き立つような楽しいモデルだったし、街乗りにも十分に使える乗り心地(最新の高級国産車に教えてあげたいくらい)も見せてくれたのがうれしかった。
あえてM2との違いを言えば、他の上級Mモデルと同様、ドライブモードをステアリングの重さとエンジン出力とで別個に切り替えることができる(アシのダンピングは可変ではない)ようになったため、「軽くさばけるスポーティーな走り」という具合に、より好みのモードで走れたのがよかった程度だ。ちなみに、好みのセットを2種類記憶できる「M1/M2ボタン」がステアリングホイール上に設けられている。
M2との違い、つまりはエンジンパフォーマンスの差がはっきりと現れたのは、サーキットでの試乗だった。高回転域におけるパンチの強さがまるで違っている。踏み続けてなお、奥でもうひと伸びがある。広範囲にわたって供給され続けるノリノリのトルクもテクニカルサーキットではうれしい。
速さでは、断然2ペダルのDCTである。特にサーキットでは2ペダルに限る。けれども峠などを軽く攻めて楽しむなら3ペダルMTだし、日常的にも3ペダルのほうが何かと面白い。トルクがあるから、さほど不便ではない。ちなみに、サーキットで3ペダルはつらかった。シフトアップで、段を飛ばすミスばかり。もう少しクイックなシフターが欲しいと思った。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ライバルに対する強力なカウンターパンチ
M5コンペティションは、過激だった。と同時に、上等なサルーンである「5シリーズ」らしさもちゃんと残っていて、街中からサーキットまで、極上の気分に浸ることができた。
写真を見ても分かるとおり、アシにも随分手が入っている。車高は7mm下げられ、フロントキャンバーが深くなり、リアアクスルにはラバーマウントではなくボールジョイントのトーリンクがおごられた。フロントアンチロールバーのマウントが新設計となり、リアアンチロールバーのスプリングレートも高められている。もちろん、前後のダンピングも10%、M5より硬くなった。さらに、エンジンマウントもより剛直なものをあつらえた。目指すはM5究極のハンドリングマシン、である。
M5に対して、最高出力は+25psの625psとなり、最大トルク750Nmは数値こそ変わらないものの、+200rpmの5800rpmまで維持されるという。
見た目には、各所をグロスブラック化し、専用バッジをおごって新デザインの20インチ鍛造ホイールを採用したという程度で、コンペティションアピールは控えめだ。もっとも、それくらい抑制の利いているほうが5シリーズには、お似合いだと思う。
1本あたり3kgも軽くなったホイールのおかげもあるだろう。アシまわりを固めているにも関わらず、素晴らしい乗り心地をみせてくれた。路面からのショックも一瞬で収束させてしまえるため、硬いのに気持ちがいいという理想のライドフィールだ。しかも、ステアリングホイールから前の動きが実にリニアで気持ちがいい。M5に比べて明らかにノーズが軽く感じる。両手の動きとの連動感も半端ない。そして、そのことは、そのままサーキットでの楽しさにもつながるのだった。
硬派、なのに、高級。M5コンペティションはAMGに代表されるライバルたちへM社が繰り出した、強烈なカウンターパンチであった。
(文=西川 淳/写真=BMW/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW M2コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4461×1854×1410mm
ホイールベース:2693mm
車重:1575kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:410ps(302kW)/5250-7000rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2350-5200rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:9.2-9.0リッター/100km(約10.9-11.1km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
BMW M2コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4461×1854×1410mm
ホイールベース:2693mm
車重:1550kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:410ps(302kW)/5250-7000rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2350-5200rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:10.0-9.8リッター/100km(約10.0-10.2km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
BMW M5コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4966×1903×1469mm
ホイールベース:2982mm
車重:1865kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:625ps(460kW)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5800rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20 102Y XL/(後)285/35ZR20 104Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:10.8-10.7リッター/100km(約9.3km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。


















































