フォルクスワーゲン・ポロTSIコンフォートライン(FF/7AT)
ダウンサイジング2.0 2014.10.20 試乗記 新エンジンの搭載や安全・快適装備の充実など、内容の濃いマイナーチェンジが施された「フォルクスワーゲン・ポロ」。その実力を確かめるため、箱根のワインディングロードを目指した。ディテール変更で高級感を増す
名声を確立し、高い評価を受け続けていても、時代の流れに無関係でいることはできない。フォルクスワーゲン・ポロだって、事情は同じだ。コンパクトカーとして確固たる地位を築き上げたが、自動車とそれを取り巻く環境は急速に変化している。2009年のフルモデルチェンジから5年、ポロは着実な変化でアップデートを果たした。
見た目が大きく変わったわけではないが、受ける印象は意外なほど違う。フロントグリルのメッキラインを下げて直線基調にし、リアも下端部の水平ラインが強調された。それだけでシャープさが増して高級感まで加わるのだから、デザインというのは細部の微妙な仕上げが大切であることがよくわかる。
室内ではステアリングホイールの意匠が変更され、ドアにもクロムラインが入れられてやはり高級感の演出に貢献している。ポロには頼れる兄貴分の「ゴルフ」があり、今回もお手本として追随した点がいくつかある。間違いのないデザインアイテムをお下がりとして受け取ることができるわけで、ポロはありがたい立場なのだ。
機構面ではエンジンが変更されているから、マイナーチェンジとはいえ大がかりな改良である。1.2リッターターボという形式は変わらないが、これもゴルフ同様DOHC化され、後方排気となった。圧縮比は10.0から10.5に上げられているが、最高出力は逆に105psから90psにダウンしている。もちろんスペックが下がったことを声高にアピールしてはいないが、これが英断だった。
出力ダウンのデメリットはゼロ
もともと、ポロは見た目からしても実直で端正なクルマというキャラクターである。走りだって同じで、とんでもなく速かったり目の覚めるような敏捷(びんしょう)性を持っていたりするわけではない。あくまで普通に走って気持ちいいということを目指して作っているのだ。それでも出力が10%以上も下がれば多少の我慢を強いられそうだが、それは杞憂(きゆう)に終わった。7段DSGは相変わらずスムーズで適切なシフトを実現していて、そのおかげでパワーが少し減ったくらいのことは十分カバーされている。走りに関して、デメリットは一切感じられなかった。
ダウンサイジングというのはボディーの大きさや排気量についての言葉だったが、出力というスペックにも適用できることを新しいポロは示している。これまではスペックでは見劣りしないというコンセプトだったから、新たな段階に入ったと考えていい。バージョンアップと考えれば、ダウンサイジング2.0と呼ぶべきかもしれない。
パワーを絞った恩恵もあるのか、燃費はしっかり向上している。前モデルの21.2km/リッターから22.2km/リッターになったので、約5%の改善だ。スペック表の数字が大きいことより、実際の低燃費のほうがユーザーにとってはよほどありがたい。350kmほど走って満タン法で計算すると、今回の試乗での燃費は13.4km/リッターだった。思ったほどの数字にならなかったのは山道が多かったせいでもあり、通常の使用ではあと2、3kmは伸びるはずだ。
ゴルフから受け継いだ恩恵は、安全性にも及んでいる。ミリ波レーダーを装備し、プリクラッシュブレーキシステムの「フロントアシストプラス」が全車標準となった。5km/h以上の速度で作動し、衝突の危険を察知すると自動的にブレーキをかけて減速する。コンパクトクラスで採用されるのは初めてということだ。
もちろんこのシステムをテストすることはできないのだが、レーダーを使ったシステムのアダプティブクルーズコントロール(ACC)は試してみた。一定の速度以下で前車に追随する機能で最近急速に普及してきたものだが、ポロのようなコンパクトカーにも搭載されるようになったのだ。ただ、フロントアシストプラスとは違って、こちらはベーシックな「コンフォートライン」ではオプション扱いとなる。
![]() |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
アグレッシブなACC
ACCはステアリングホイールに備えられたスイッチで設定する。メーターパネル内の小さな画面で状況を確認できるようになっていて、車間距離を決める際には先行車のアイコンが表示される。その形状が、ポロよりもゴルフに似ていた。同じシステムを流用しているので、アイコンもそのままになっているのだろうか。
ACCの動作は、比較的アグレッシブめに設定されているようだ。前が空くと、間髪を入れずに素早く加速を開始する。減速するときのブレーキも強めだ。どうしても必要な装備とはいえないが、長距離運転には役に立つ。無駄な加減速を行わないので、自分でアクセルを操作するよりも好燃費が期待できるのも有利な点だ。
快適装備としては、リアビューカメラが利用できるようになったことはありがたい。ミニバンやSUVでは当たり前の装備となったが、あれに慣れてしまうとコンパクトカーでもモニターで後ろを確認したくなる。カメラやレーダーを複数装備して安全性や快適性を向上させることは、サイズにかかわらずこれからのクルマでは常識となっていくのだろう。
ポロに乗った日は、4000万円近くする超高級車にも試乗した。価格は20倍ほど違うのでまったくの別物なのだが、ポロに乗り換えても意気消沈したりはしない。価格は安くても、そのクラスで確固たる世界観をもって作っているのであれば、安っぽくはならないのだ。
久しぶりにポロに乗ると、体になじむ手頃なサイズ感がこのクルマの良さの根源にあると感じる。山道を軽く飛ばすのには最適だし、街なかではストレスを感じなくてすむ。コンパクトなボディーでも高級感はそれなりにあって、今回のマイナーチェンジで安全性や快適性でもトップクラスの装備を手に入れた。引き続き5ナンバーサイズを維持していて、兄弟車の「アウディA1」が3ナンバーであることを思えばメリットは大きい。
手放しでオススメすると言いたいところだが、そうもいかない。この試乗の後、「ブルーGT」が発売されたのだ。マイナーチェンジ前に乗った時は、走りとエコ性能の絶妙なバランスに感心した。コンフォートラインと同様のリファインを受けたのだから、きっとさらに魅力を高めていることだろう。乗り比べれば悩みそうだが、どっちを選ぶにしてもやはりポロはオススメ、ということではあるのだけれど。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ポロTSIコンフォートライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995x1685x1470mm
ホイールベース:2470mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:90ps(66kW)/4400-5400rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:223万9000円/テスト車=253万3300円
オプション装備:Navi 714SDCW(含むリアビューカメラ)+ACCパッケージ(29万4300円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1690 km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:350.4km
使用燃料:26.2リッター
参考燃費: 13.4km/リッター(満タン法)/13.7km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。































