BMW i8(4WD/6AT)
その価値を探求せよ 2014.05.27 試乗記 BMW iブランドモデルの第2弾「i8」が、いよいよ公道に現れた。1.5リッター直3エンジンにモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド・スポーツカーの実力やいかに? ロサンゼルスからの第一報。まるで生き物のよう
BMWのプラグインハイブリッド・スポーツカー「i8」にアメリカ・ロサンゼルス周辺で乗ってきた。
日本でもすでに発売されている「i3」に続くiブランドの第2弾。i3が電気自動車(EV)であるのに対して、i8はプラグインハイブリッドカー(PHEV)である。
試乗前夜、マリブの丘の中腹にあるレセプション会場に置かれたi8を眺めていてまず気付いたのは、その特異なサーフェスデザインだ。プロポーションはロングノーズ・ショートデッキスタイルでクラシカルですらあるのに、各部分や表面などの造形と処理が斬新だ。
もっとも、デザイナーのダニエル・シュタルク氏に言わせると、「すべてはエアロダイナミクスのためにある」ということらしい。
例えば、リアスポイラー。僕らがよく目にするリアスポイラーはクルマのリアエンドに沿った直線状のかたちをしている。凝ったものでは一部が曲線になっていたり、3次曲面を用いたりしているが、リアエンドに沿うように据え付けられていることには変わりない。
しかし、i8は違う。2本の大きなブーメラン状のスポイラーが左右のリアエンドの角を合わせるようにして取り付けられているのだ。それらは単にスポイラーと呼ぶには随分と有機的なカタチと取り付けられ方をしている。「取り付けられる」というよりは、ルーフの一部から「生えてきている」のだ。そのルーフの一部にしても、さらに前方のAピラーを覆っているボディー表皮が伸びてきたのものなのである。
つまり、今までの常識ではボディー形状だけでは向上させることができない空力特性を改めるために、あとから取り付ける別個のパーツがスポイラーだとするならば、i8のそれはボディーの一部が伸びて最適な形状に形作られている。あと付けではない。まるで、サメやエイなどの生き物が生存に必要なために長い時間を掛けて自然の摂理に従って進化したようなカタチを身にまとっている。
このブーメラン状のスポイラーのことをBMWは「ルーフフレーム」と呼んでいて、確かにその方がしっくりくる。テールライトとリアフェンダーとの間には隙間があり、空気を効率的に吸い出すダクト効果を生み出しているという。
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空気を味方に
生き物といえば、フロントの左右バンパー(ボディー同色部分)とその内側に重ねられた黒い部分を上から見た時の形状が、マンタ(オニイトマキエイ)そっくりだ。
重ねる=レイヤリングというのも、i8のボディー表面のデザインの大きな特徴のひとつだ。フロントバンパーとフロントフェンダーやリアフェンダー、リアスポイラー、テールライトユニットなど、さまざまな部分の造形にレイヤリングが施されている。今までのクルマでは目にしたことのない自由な造形であり、目を奪われる。レイヤリングは空力特性向上のためにある。
レイヤリングを可能にしているのは、i8のボディー/シャシー構造だ。よく知られているように、i8はi3同様に「ライフモジュール」と呼ばれるカーボンファイバー製のパッセンジャーセルと、「ドライブモジュール」と称されるアルミニウム製シャシーが組み合わされている。ドライブモジュールには、パワートレイン、バッテリー、サスペンションなどがマウントされている。
ライフモジュールとドライブモジュールがクルマの構造機能と衝撃吸収機能を担うため、それらから解放されたボディーはもっぱら空力特性の向上に専念できる。フロントエプロンに内蔵されたエアカーテン、フラットにカバーされたアンダーフロア、空気の流れに沿った造形のサイドスカート、ボディーサイドのストリームフローラインなどによって空気の流れをさまざまにコントロールしようとしている。ここまで徹底して空力特性の向上を図ろうとしたクルマは、他に例を見ない。外観上の大きな特徴となっているのと同時に、レイヤリングは空気の流れを整え、かつその力を活用しようとしている。
i8のエクステリアデザインは見た目の奇をてらったものなどではなくて、ボディー/シャシー構造と空力特性の追求という理詰めの要求から必然的に導き出されたものなのである。そうした潔癖なまでの理想主義的、機能主義的なデザインがi8の特徴と魅力となっている。
「空気の流れは精密に定められています」
シュタルク氏の説明を受けながら、その一端を垣間見ることができた。
軽く、固く、滑らかな走行感覚
翌日、いよいよサンタモニカのシビックセンターのエントランスに並べられたi8に乗り込み、走りだした。
インテリアについても詳しく述べたいところだが、先を急ごう。i3ほどラディカルではないが、他のクルマよりははるかに未来的なデザインがなされていることは確かだ。
ところで、i8には5つの走行モードが備わっているが、デフォルト状態ではCOMFORTモードで走りだし、エンジンと電気モーター両方を働かせながらスポーティーで効率的なドライビングとなる。エアコン、シートヒーター、ドアミラーヒーターなど快適関連の装備も無制限に使用できる。
しかし、最も効率を優先したECO PROモードでは、これらの装備の電力消費量を必要最小限に抑制される。そして、COMFORTとECO PROの2モードは、eDriveボタンを押せば、電気モーターしか働かせないで走行することができる。この場合の航続距離は37km。速度は120km/hまで。もちろん、それを過ぎるとエンジンが掛かる。
サンタモニカから北上し、街中を通ってダウンタウンのファイナンシャルセンターで方向を変え、ロデオドライブまで電気で走ってみた。
停止からも強力なトルクを発する電気モーターによって、走りだしは非常に強力だ。遮音性に優れたボディーなので、タイヤの路面との擦過音もほとんど入ってこない。
滑らかに素早く走りだし、シャシーとボディーがカッチリとしている。軽さと滑らかさが混然一体となった加速を、強固な車体が支えている。これまでの内燃機関をパワートレインとしたスポーツカーとは全く異なった運転感覚だ。
当然のことだが、それは同じ構造を採用しているi3の運転感覚ととてもよく似ている。
i3と違うのは、電気モーターには2段オートマチックトランスミッションが備わっていることで、高速域まで加速の衰えなく前輪を駆動する点だろう。
それに対して、1.5リッター3気筒ツインターボエンジンは6段オートマチックトランスミッションと組み合わされ後輪を駆動する。つまり、両者が働く時には4輪が駆動される。もちろん、ハイブリッドなので、電気モーターとエンジンは「インテリジェントエネルギーマネジメント」によって走行条件を鑑みながら、きめ細かく両者を連携させ、制御している。前後アクスルへのトルクを制御するトルク配分コントロールも行われる。
アスリートのごとき軽やかな足取り
フリーウェイではCOMFORTモードを選んだ。乗り心地優先のシャシー/サスペンションと効率的なエネルギーマネジメントを行う設定となる。速度、スロットル開度などさまざまな要素をi8がリアルタイムで演算して、エネルギー配分を細かく変えながら走っている。それをモニター画面に映しながら走ることができるのは、他のハイブリッドカーと変わらない。ちなみに、COMFORTモードでガソリン満タン、電気が満充電ならば600kmの航続距離を有している。
舗装のつなぎ目などで、時々、鋭い突き上げを感じることがあったが、快適そのものだ。「ベントレー・コンチネンタルGT」のようにボディーの重さを快適性に活用しているのとは正反対の、体脂肪率が極めて低いアスリートが走るような快適さである。
山々の尾根をつなげるワインディングロードのマルホランドドライブを西から東へ走る時にはパフォーマンスが最も発揮されるSPORTモードを選んだ。電気モーターのトルクの立ち上がりがよりダイナミックになり、エンジンのスロットルペダルに対する反応も素早くなる。電気モーターによる「ブースト」効果も増すから、別のクルマのように力強い加速を見せる。
と同時に、減速時のエネルギー回生も最大限に行われるから、回生ブレーキのよく効いた、メリハリのある走りになる。
「プレミアム」の意味が変わる
それぞれのシーンで走行モードを変えて走ってみたが、その違いは小さくない。COMFORTモードとECO PROモードでeDriveボタンを押して電気モーターだけで走っている場合には停止からのダッシュと静粛性が印象的だが、一方で、SPORTモードで回生ブレーキが加減速のメリハリを利かせてスポーツドライビングを楽しませてくれながら、同時に電気もため込んでいて、来るべきeDriveシーンに備えている。浪費を繰り返しながらも、いつの間にかその一部が貯金されているような妙な感覚だ。
どのモードで走っても、滑らかな加速で速いことには変わりない。静かで乗り心地も良く、快適性も高く申し分ない。
あえて言うなら、トランクスペースの小ささが弱点である。後席を荷室代わりに利用することになることは、BMWも認めている。
では、邦貨で約2000万円になるi8は、とっくの昔に今年度分を売り切ってしまっているようだけれども、その価値はいったいどこにあるのか?
それは、「新しモノ」買いの魅力だろう。カラーテレビが出た時、ビデオデッキが発売された時、携帯電話が出た時のココロのときめきを思い出してみてほしい。i8には、今までのスポーツカーとは全然違う走りっぷりと、それを実現しているモノの魅力が詰まっている。その背景になっているのは、きわめて今日的な命題である「持続可能性の高さ」を希求する姿勢だ。i3とi8は、それを新しいプレミアム価値として打ち出してきている。
そんなi8だから、「V8エンジンの官能性」とか「ニュルブルクリンクのラップタイムが○分○秒」といった既存の価値観を求めてしまうと肩透かしをくらうだろう。そうした予定調和は買う方も売る方もラクだけれども、i8の価値と素晴らしさは今のところいちいち探りながら考えて、解釈してみなければ享受することはできない。
それを面倒くさいと感じる人は、残念ながら単なる「PHEVのスポーツカー」というところで思考が止まってしまうだろう。その反対に、自分で考えながらi8を探っていくことを厭(いと)わない人には、i8は新しい魅力で次々と応えてくれるに違いない。それだけの内容と魅力を持っている。0-100km/h加速4.4秒というi8の速さは、「ポルシェ911カレラ」より0.2秒速く、「カレラS」より0.1秒遅い。体感する速さもその通りで、快適だ。ただ、速さと快適性を実現しているアプローチがこれまでのスポーツカーと全く違っている。「こういうクルマが作られる時代になったんだ」と、驚きながら感心させられるばかりだ。
スタイルや内外デザイン、仕上げの巧みさなど、誰の目にも魅力に映るところがある反面、PHEVの意義や再生材の最大限の利用など、新し過ぎて支持層が限られてしまいそうな部分もある。それは「新しモノの宿命」として仕方がないのかもしれない。でも、僕は大いに評価したい。近未来を走っている気にさせてくれるからだ。
(文=金子浩久/写真=BMW)
テスト車のデータ
BMW i8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4689×1942×1293mm
ホイールベース:2800mm
車重:1485kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期モーター
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:231ps(170kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:32.6kgm(320Nm)/3700rpm
モーター最高出力:131ps(96kW)/4800rpm
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)/0rpm
タイヤ:(前)195/50R20/(後)215/45R20
燃費:2.1リッター/100km(約47.6km/リッター:EUサイクル)
価格:1917万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。価格は日本市場のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

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