シトロエンC3(FF/5MT)【海外試乗記】
飛ばさなくても楽しめる 2009.11.14 試乗記 シトロエンC3(FF/5MT)シトロエンの売れ筋モデル「C3」がフルモデルチェンジ。大きなフロントウィンドウが目を引く、新型の出来栄えは? 本国での発売を前にイタリアで試乗した。
際立つディテール
自動車作りを始めて今年90周年を迎えたシトロエンの歴史で、2002年にデビューした「C3」は画期的なモデルといえるかもしれない。先進性を尊ぶフランスらしく、過去の遺産には目もくれなかったブランドが、ラウンディッシュなフォルムや1本スポーク風ステアリング、扇形のメーターなど、「2CV」を連想させるデザインを採り入れてきたからだ。
いまでは「プジョー207」などにも使われている新世代プラットフォームを初採用し、フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームという、現在のコンパクトカーの定型ともいえるサスペンション形式をいち早く導入したシトロエンでもあった。
もっとも「意余って力足らず(?)」だったのも事実で、室内の仕上げはお世辞にも上質とはいえず、後席は頭上空間が狭く、低速での乗り心地は硬めで、シトロエンならではのやさしさが得られにくかった記憶がある。
それでも世界レベルでは、7年間で200万台を売る人気車種になった。そのためだろう、今年秋に発表された2代目は、デザインについては旧型に似て、コロンと丸い。ところがイタリアのトスカーナ地方で開催された国際試乗会で初めて出会った実車は、そのフォルムよりディテールが目立っていた。
注目は、フロントウィンドウ
なにより驚くのは巨大なフロントウィンドウだ。「ゼニス(頂上)ウィンドスクリーン」と名づけられたこの窓は、実にBピラーまで伸びている。「C4ピカソ」にも似たような窓がついているけれど、コンパクトな量販車種に同様の設計を取り入れた大胆なクルマ作りに感心する。
さらに新型は、窓以外にもコストがかかっている。グリルやサイドウィンドウにクロームのモールを入れただけでなく、フェンダーやドアには彫刻的なプレスラインをおごっている。おかげで見た目の質感は国産コンパクトカーとは別次元である。
ただしサイズアップは控えめだ。2456mmのホイールベースはほぼ不変だし、3944×1708×1514mmというサイズは96mm長く、38mm広くなったにすぎず、背は26mm低くなっている。メーカー側はライバルの「フォルクスワーゲン・ポロ」や「プジョー207」より短いことをアピールしていた。いい傾向だ。
でも室内は狭くない。とくに後席は、ルーフのカーブや前席の背もたれが工夫されたおかげで、旧型のように頭が触れることはなくなり、ひざまわりの余裕も増えていた。インパネはデザインこそ一般的になったものの、シルバーやブラックのお化粧のおかげで、安っぽさは払拭された。シートはコンパクトカーらしからぬ厚みで、やさしい座り心地。さすがシトロエンである。
それにしても「ゼニス窓」の開放感は圧倒的だ。なにしろドライバーの後ろまでガラスが伸びている。C4ピカソのような引き出し式サンバイザーの準備もあったけれど、試乗中はまったく閉めようという気にならなかった。
乗り心地はシトロエン風味
エンジンは、ガソリンが1.1/1.4/1.6リッター、ディーゼルターボは1.4/1.6リッターというラインナップ。試乗会に用意されたのは1.6リッターのガソリンとディーゼルターボで、トランスミッションは5段MTだった。
2010年6月に4段ATとの組み合わせで発売される予定の日本仕様はガソリン1.6リッターのみ。旧型とは異なり、BMWと共同開発した新世代ユニットを積む。
サイズアップを抑えた新型C3は、重さも抑えている。1135kgという車両重量は、日本で売られていた旧型1.6リッターモデルの1180kgより軽い。おかげで上り坂や高速道路を含めて、加速に不満を覚えることはなかった。しかも遮音性は高く、エンジンははるかにスムーズになったので、クルージングの上質感はアップした。
それ以上に進化を実感したのは乗り心地だ。ひとことでいえばシトロエンらしくなった。硬さは影を潜め、旧型より太く扁平な205/45R17を履いた仕様でも、しっとりしなやかな足さばきを見せる。新世代プラットフォームにシトロエンのダシがほどよく染み込んで、絶妙な風味に仕上がっていた。
電動パワーステアリングの手応えは自然そのもの。ハンドリングをチェックするようなシーンには恵まれなかったが、旧型で気になったノーズの重さや腰高感はなく、素直に曲がっていくことは確認できた。アウトストラーダでは、130km/hオーバーの領域でも、サイズを超えた直進安定性を披露してくれた。
でもこのクルマは飛ばさなくても楽しい。日本仕様には標準装備されるゼニス・ウインドスクリーンから差し込む光を浴びながら、しなやかな乗り心地に身を委ねているだけで満足できる。こんなにリラックスしてクルージングできるコンパクトカーはめずらしい。「移動が心地いい」と感じさせてくれる点で、新型C3はまぎれもなくシトロエンだった。
(文=森口将之/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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