MINIエースマンSE(FWD)
小さな大エース 2025.02.10 試乗記 せっせとラインナップを刷新してきたMINIは、まったくのブランニューモデルとしてこの「MINIエースマン」を投入した。新顔なのにエースとは大きく出たものだが、果たしてどんな立ち位置のモデルなのだろうか。試乗を通じて確認した。コンセプトはカリスマティック・シンプリティー
日本で一番売れている輸入車の座を、2016年から維持し続けているのがMINIだ。日本自動車輸入組合=JAIA調べでは、2024年も1万7165台を売り上げてその座を堅持した。店舗数も210と、いつの間にやらレクサスと肩を並べんばかりになっている。
もっとも、MINIはバリエーション全体が束になっての数字ゆえ、1位も当然といえば当然だ(ちなみに2位は「メルセデス・ベンツGLC」の7047台)。一方で、前年がフルモデルチェンジラッシュだったことに鑑みれば、2025年はさらに数を伸ばす可能性もある。
そのフックになるかが注目されるのがこのモデル、エースマンだ。カリスマティック・シンプリティーというコンセプトは意訳すれば「こんまりの片づけ術」のような話なのだろうか。そんなコンセプトカーが現れたのは2022年のことだが、その時点で電気自動車(BEV)専用アーキテクチャーを採用するモデルとして2024年には販売を開始するという旨が伝えられていた。その時程どおりにきっちり発売にこぎ着けているあたりは、いかにもドイツのお仕事である。
BMWはオリジナルMiniの意匠的資産を、ほぼ四半世紀にわたってさまざまなかたちで活用してきた。オリジナルMiniがイシゴニス卿のアイデアのもと、究極的なミニマリズムとともに近代FFカーの礎を築いていたこともあり、そこに敬意を抱く方々からは否定的な声も耳にしたが、程なくそんな話は届かなくなった。年月とともに、Miniというカルチャーが継続されることへの支持が増えていったということだろう。
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ラインナップは「S」と「SE」の2タイプ
現在のMINIのラインナップは、そのオリジナル的な意匠に忠実な「クーパー」系と、そこにサラリとラギッド感を加えた「カントリーマン」系に分類される。エースマンは意匠的にはカントリーマン的なクロスオーバーテイストだが、車台やメカニズムはクーパーのBEVモデルと共通だ。ホイールベースはクーパーのBEVモデルより80mm長い2605mmだが、外寸は「ヤリス クロス」よりも小さい。もとより、カントリーマンよりひと回り以上はコンパクトな、Bセグメント級の車格となる。カスタマー目線でいえば、小さなMINIの5ドアモデルが欲しいなら、丸っこい内燃機版のクーパーか、角張ったBEVのエースマンかで悩むことになるわけだ。
エースマンは「E」と「SE」の2グレードで展開。ともに前輪駆動で、Eは最高出力186PS/最大トルク290N・mのモーターと容量42.5kWhの駆動用バッテリーを、SEは218PS/330N・mのモーターと54.2kWhの駆動用バッテリーを搭載している。急速充電の受電能力はEが70kW、SEが95kWと違いがあり、近年日本の高速道路でも増えている90kW級のベンダーに対してはSEのほうがよりベストなパフォーマンスが得られるだろう。ちなみに一充電走行距離はWLTCモード値でEが327km、SEが414kmとなっている。
機能装備的な差異はタイヤサイズなどわずかなので、選択のポイントはこの電気まわりの能力差に対して、同等トリムで約50万円という価格差をどう考えるかということになるかもしれない。ちなみに動力性能的には0-100km/h加速で7.1秒か7.9秒かの違いはあるが、これに一喜一憂する人は少ないだろう。Eでも十二分に速いことは間違いない。さりとて、試乗に用いたグレードは、やはり多くの人が選ぶと思われるSEだった。
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小さいのに広い
ペースマンのナリは寸法を超えて大きく見える。端々がカチッと角張っていて、車高もちょっと高いがゆえの錯覚だろうが、あくまで見た目の印象でいえばサイズ感はクーパーというよりはカントリーマンの側に近い。そして形状的に角張っているぶん、前方の幅方向の見切りはクーパーよりむしろ優れているようにうかがえる。同様に、着座高の高さがゆえの乗降のしやすさもひとつのポイントとなるだろう。
後席使用時の荷室容量は300リッターと、クーパー5ドアより1割ほど大きいが、それ以上に違いを感じるのが後席の居住性で、身長181cmの自分がドラポジを合わせた状態で、その後ろに回っても膝元に余裕をもって座ることができた。ここにはBEV専用アーキテクチャーの恩恵が感じられる。パッケージにたけた日本のBセグメントにも十分対抗できそうだ。
内装の意匠や仕立て、ファンクショナルなところは他のMINIファミリーと徹底的に共有されている。やれ“タコカニ”だ“チェイサー”だと昭和の代から兄弟車的なものをいろいろ目撃した身としては、車種ごとに少しでも違ったテイストを盛り込んでもいいのではと思ったりもするが、そもそもがかなり独創的な形状ゆえ、小手先な差別化の意味も効果もあまりないという判断なのかもしれない。また、今後はUXにまつわる造作が自動車内装の優先事項になるがゆえ、意匠的にはなかなか細かな差別化が施しづらくもなるだろう。
エースマンの果たす役割
走りのキャラクターは意匠的によく似たカントリーマンよりも、ぐっとクーパーの側に近い。ちくわを超えてさつま揚げ級に握りが太めなステアリングとハイゲインな操舵感との組み合わせからして、ともあれキラキラと快活に振る舞えることを志向している。乗り心地は平穏な路面環境では硬さを感じさせず洗練されているが、小さな凹凸や補修痕が連続するような道では足さばきにバタつきがみられることがある。車重も鑑みると、スパッとシャープなコーナーでの振る舞いとのトレードオフと考えるべきだろうか。それでもBEVらしい静粛性もあって、日常的なシーンでは望外の上質さも感じられる。
現在のラインナップに「コンバーチブル」が加われば、MINIシリーズのバリエーションはひと通りの完成をみることになるが、BEVを取り巻く環境が足踏み状態のなか、内燃機モデルを残すという決断を早期に下していたのはブランドにとってラッキーだったのではないだろうか。エースマンの出来栄えはおおむね文句のつけようのないところにあるが、機能軸でみればどうしても制約があるわけで、そこに5ドアという選択肢があることで、MINIの世界観にいることを諦めずに済むというユーザーも少なからずいるわけだ。逆にエースマンのようなBEV版MINIのラインナップは、若々しさに加えてプレミアム性を望むような中高年のユーザーとも相性がいいのではないかと思えた。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
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テスト車のデータ
MINIエースマンSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4080×1755×1515mm
ホイールベース:2605mm
車重:1740kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:218PS(160kW)/7000rpm
最大トルク:330N・m(33.6kgf・m)/50-4500rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93V XL/(後)225/40R19 93V XL(グッドイヤー・アシュアランス コンフォートトレッド)
交流電力量消費率:144Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:414km(WLTCモード)
価格:531万円/テスト車=592万5000円
オプション装備:ボディーカラー<レベルレッド>(8万9000円)/インテリアカラー<ベスキン ダークペトロール>(0円)/フェイバードトリム(16万4000円)/Mパッケージ(24万6000円)/19インチホイール<ヘキサグラムスポーク2トーン>(8万2000円)/ブラックルーフ&ミラーキャップ(0円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1781km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:243.5km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.8km/kWh(車載電費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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