レクサスLBX“リラックス”(4WD/CVT)
心地よい清涼感 2024.03.05 試乗記 レクサスの新しいBセグメントSUV「LBX」に試乗。「サイズというヒエラルキーを超えたこれまでにないコンパクトラグジュアリー」をうたうLBXは、ゴージャスでパワフルな高級車を卒業した、悩めるアラ還の新たなニーズに応える小さなプレミアムカーなのか?クルマ好きが求める小さな高級車?
“アラ還”と呼ばれる年齢に差しかかってつくづく感じるのは、これから小さな高級車の需要が漸増するだろうということだ。クルマ好きの同級生は、「車体とガードレールの隙間をティッシュ3枚分まで攻められる」と豪語する、研ぎ澄まされた車両感覚がジマンだった。けれども、最近ではすれ違いにすら気を使うようになったという。目の衰えも悩みのタネで、筆者も夜間の走行はスピードに目がついていかなくなり、20歳代、30歳代の頃には感じなかったスリルを味わっている。
といったわけで65歳以上の高齢者が人口の約3割という高齢化社会ニッポン。コンパクトで取り回しがよく、安全装備が充実しているうえに、胸を張って所有することができる小さな高級車を求める人は、増えることはあっても減ることはないはずだ。
そこに登場したのがレクサスLBXだ。同車のオフィシャルホームページを開くと、「サイズのヒエラルキーを超えた新たなコンパクトラグジュアリー」という惹句(じゃっく)が目に飛び込んでくる。そう、まさにそういうやつに乗りたい人がいるはずなのだ。レクサスLBXは、俺たちアラ還のクルマ好きが求める小さな高級車なのか。試乗して確かめてみた。
シンプルで洗練されたモダンを表現した“Cool”と、落ち着きと華やかさを両立する“Relax”というふたつのグレードのうち、試乗したのは後者。FF仕様も用意されるけれど、ステアリングを握ったのは最大トルク52N・mを発生する独立したモーターが後輪を駆動する4輪駆動仕様だった。
ちなみに車両本体価格は486万円で、「アウディQ2」あたりとガチンコだ。ほかに税込み25万1900円なりの「“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム」などの総額74万4700円のオプションを装備した合計金額は560万4700円。なかなかのお値段だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
後席空間は「ヤリス クロス」より少し狭い
エクステリアのデザインは好き嫌いがはっきり分かれるだろう。立体化したスピンドルグリル、抑揚に富んだサイドパネル、マッシブなリアフェンダー、優雅なルーフラインと非常に饒舌(じょうぜつ)で、これを会話が楽しいと受け取るか、しゃべりすぎでうるさいと受け取るか。個人的には後者で、「ヤリス クロス」にしろ「ランクル」にしろ、最近はトヨタ車のデザインがかっちょよくなっているので、レクサス車のデザインは差別化を図るためか、蛇の絵に足を付け足してしまう傾向がある気がしてならない。
ま、好き嫌いがはっきり分かれることは悪いことではなく、金八先生も「大切という言葉は大きく切ると書きます。真っ二つにされる覚悟があるからこそ、その人を大切にできる」とおっしゃっている。LBXは「Lexus Breakthrough X-over」なのだから、万人に受ける無難な路線より、熱烈に支持される可能性がある突き抜けた形でいいのだろう。
好き嫌いが分かれることは悪いことではない、と書いた舌の根も乾かぬタイミングですが、すっきりとまとまったインテリアは多くの方が好印象を持つはずだ。“Relax”グレードに備わるセミアニリンの本革シートは滑らかで発色も美しく、各部に配される「L tex」と呼ばれる合成皮革とのマッチングも良好で、しゃれた空間になっている。
ただし、後席のスペースが同じ基本骨格を用いるヤリス クロスより少し狭くなっていることは、知っておくべきだろう。明確に、DINKSや子育てが終わった世代にロックオンしている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
中速域の走りはリッチでキモチいい
いざスタートして感じるのは、新しい高級感を表現しているということだ。これまでの高級車というと重厚長大、どっしり構えてずっしり走った。けれどもレクサスLBXは、軽やかに走る。この軽快な走行フィールが、安っぽさにならないあたりがとても興味深かった。
軽いのに安くならない理由は、第一に直列3気筒エンジンと前後のモーターを組み合わせたハイブリッドシステムが静かで滑らかだからだろう。
当初は、モーターが関与する割合が高いから音と振動が抑えられているのかと感じたけれど、注意深く観察すると、バランスシャフトを組み込んだ3気筒エンジンの回転フィールそのものがクールだった。今は昔、「臭い匂いは元から絶たなきゃダメ」という消臭剤のキャッチコピーがあったけれど、LBXも根っこの部分から音と振動を絶とうとしている。で、根っこから対策をしたうえで、オプションの“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム+アクティブノイズコントロールが逆位相の音をぶつけて、音と振動を軽減している。
お行儀がいいだけでなく、ドライバーの意思にリニアに反応してくれることも、このパワートレインの美点だ。なにもブン回してコーナーを攻めるような場面だけでなく、街なかを軽く流すような場面での微妙なアクセルワークにも、きちんと反応してくれる。決して速いクルマではないけれどパワーは十分以上だし、なにより「加速したい」というドライバーの意思と命令が、夾雑(きょうざつ)物なしにダイレクトに反映される点がうれしい。
つり下げ式ペダルと比較したわけではないので断言はできないけれど、アクセルペダルにオルガン式ペダルを採用したというこだわりも、好レスポンスにつながっているはずだ。と、調子に乗ってブン回していたら、高回転をキープすると3気筒エンジン独特の「ホロホロ感」が出現することを確認。別にブン回したからといってうま味が出るパワートレインでもないので、リッチな中速域を使って走るほうがキモチいいし、燃費にもいいはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これまでの高級車像とは異なる
軽いのに安くない、と感じるのは、足まわりの手柄でもある。走りだした当初は、意外とスポーティーでカタいかも、と感じた。小さな高級車というふれこみだったから、ボヨヨン路線やふんわり路線をとるだろうという先入観も、意外とスポーティーという印象につながったのかもしれない。
けれども市街地を走り、高速道路を走り、山道を走ると、スポーティーという印象はすがすがしいという印象に変化した。ステアリングホイールの手応えは良好で、路面からのインフォメーションをきっちりと伝えるから自信を持って操舵することができる。そして操舵という入力が、きっちり100%、車両の動きとして反映される。インプットとアウトプットがタイムラグなしにイコールとなるところが、軽いのに安くないと感じさせる理由だ。
で、そうした目立たないけれどわかる人にはわかる部分に入念に手を入れてチューニングしているあたりが、高級感につながっている。従来のゴージャスでパワフルで「どないだー!」という高級車像とは異なる、清涼感のある透き通った高級車だ。
高速道路での渋滞時に一定の条件を満たせばステアリングホイールとアクセル、ブレーキの操作を委ねられる「Lexus Teammate Advanced Drive」や、駐車をアシストしてくれる「Lexus Teammate Advanced Park」といった運転支援機能が試乗車にはオプション装備されていた。幸いにも渋滞や駐車はまだ苦にならないけれど、自動的にヘッドランプの照射範囲を最大化してくれるアダプティブハイビームシステムが大変にありがたく感じられたことは、付記しておきたい。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
レクサスLBX“リラックス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1825×1545mm
ホイールベース:2580mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
フロントモーター最高出力:94PS(69kW)
フロントモーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
リアモーター最高出力:6PS(5kW)
リアモーター最大トルク:52N・m(5.3kgf・m)
システム最高出力:136PS(100kW)
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ヨコハマ・アドバンV61)
燃費:26.2km/リッター(WLTCモード)
価格:486万円/テスト車=560万4700円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックカッパー>(16万5000円)/Lexus Teammate Advanced Drive<渋滞時支援>+緊急時操舵支援<アクティブ操舵機能付き>+フロントクロストラフィックアラート[FCTA]+レーンチェンジアシスト[LCA]+ドライバーモニター連携(9万0200円)/Lexus Teammate Advanced Park<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周辺静止物>[PKSB](4万8400円)/ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルキー(3万3000円)/おくだけ充電(1万3200円)/カラーヘッドアップディスプレイ<連動ディスプレイスイッチ付き>(5万5000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム+アクティブノイズコントロール(25万1900円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W>(4万5100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1979km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:215.3km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。




















































