ディフェンダー90 X-DYNAMIC HSE D300(4WD/8AT)
サファリジャケットを着たヘビー級ボクサー 2023.12.04 試乗記 いまや大中小、すなわち「130」「110」「90」の3タイプのボディータイプをラインナップする「ディフェンダー」。最新モデルでは90とトルクフルな3リッター直6ディーゼルの組み合わせが実現した。悪いわけはないと思いつつも、念のためそのマッチングを検証する。初物づくしで縁起がいい!
ディフェンダー90のディーゼルがやってきた! ディフェンダーの110と130には搭載済みの3リッター直列6気筒ディーゼルターボ(マイルドハイブリッド)が、2024年モデルからショートホイールベースの90にも加わったのだ。
90のホイールベースは2585mmで、全長は4510mm。全幅は2m近く、全高もあと3cmで2mという長身ではあるものの、ホイールベースは現行「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の2620mmより35mm短い。そういうコンパクトなボディーと、48Vマイルドハイブリッド付き直6ディーゼルとの組み合わせによって、どんなにすてきなクロスカントリー4×4に仕上がっていることか、期待は高まる。ホイールベースが3020mm、全長が4945mmのディフェンダー110との違いも興味深い。
もっとも、筆者がディフェンダーで試乗したことがあるのは、110の直4ガソリンターボだけで、90も初なら直6ディーゼルも初。初物づくしで、縁起がいいのであります。というのは個人の感想でした。
手に入れちゃえばなんとかなる
秋の爽やかな好日、富士山の裾野に広がる御殿場の芝生のなかで見た、そのディフェンダー90のカッコいいこと。アウトドアともアドベンチャーとも無縁の筆者でもほれぼれする。単に「ランドローバー」とだけ呼ばれた、戦後間もない1948年に誕生した初代を思わせるプロポーションと立ち姿にグッときちゃうのである。
さりとて、試乗車の「ディフェンダー90 X-DYNAMIC HSE D300」は車両価格だけで955万円もする。それに、26万円もするルーフラックや8万2000円の20インチホイール、34万1000円のエアサスペンション等々、合計231万1702円のオプションがてんこ盛りになっている。魅力的なオプションのショールームになっているわけだけれど、車両価格と足すと、総額1186万1702円になる。およそ1200万円!? ああ……。と諦めてはいけない。残価設定ローンを利用するなどして、ともかく手に入れれば、ディフェンダーは大人気モデルだからして、のちのちいいことがあるかもしれない……。
というような夢を見ながら、自分も励まして、コックピットに乗り込む。最低地上高がエアサス仕様だと290mm、およそ30cm近くもある。30cm足を上げるのはタイヘンである。幸いにして今回の個体には18万9990円のサイドステップが付いている。およそ19万円……。う~。なくてもいいか。と思いつつ、サイドステップはあったほうが乗り込みやすいこともまた事実である。やっぱ、買うときには付けよう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
長靴からスニーカーへ
着座位置はめちゃんこ高い。たぶん2tトラックぐらいの高さがある。見晴らしがすばらしくよい。新鮮な景色である。それからダッシュボードのスタートボタンを押す。即座にギュルンッというセルが回る音がして、ディーゼルターボが目覚める。そのむかしのディーゼルエンジンはグローランプが消えるのを待ったものだけれど、それは1980年代までの話で、ご存じのように現代のディーゼルはガソリンとなんら変わらない。バランスに優れた直列6気筒ゆえ、ディーゼルだから、と期待する振動もまったくない。軽くブリッピングすると、ガソリンユニットよりゆっくり回っている感はある。まるで往年のOHVエンジンのように。
でもって、ダッシュボードから生えたシフトレバーをDに入れて走りだす。レバーの位置は大変好ましく、左手を出したところにそれはある。この個体は255/60R20の「グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー」という、クロスカントリー4×4用のタイヤを装着している。トレッドのブロックがいかにもゴツゴツしている。だからカッコいいわけである。走りだすと、その先入観もあってか、乗り心地に硬くて柔らかいゴムのようなゴツゴツ感がある。長靴を履いているみたいな感がある。
ところが、アスファルト路面をしばらく走っていると、速度による変化もおそらくあって、長靴をいつの間にか脱ぎ捨てて、エアクッション付きのスニーカーに履き替えていた。乗り心地がいいのである。たとえ路面が荒れていても、ガツンという衝撃が皆無であることにも気づく。オフロード機能を重視するランドローバーだけれど、2019年に発表した現行ディフェンダーでは足まわりを4輪独立化している。だから、トラックみたいな乗り心地では全然ない。後輪がリジッドのクルマのようにリアが同時にぴょんと飛ぶようなことがまるでない。おまけに試乗車は電子制御のエアサスペンションを装備している。おそらくはこのエアサスがとってもいい仕事をしていて、凸凹路面で生じるようなショックの角を見事に丸めている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ワルツのようなコーナリング
曲がりはどうなのか? と思い立ち、狭くてブラインドコーナーが続く長尾峠(神奈川県~静岡県)へと向かう。これが意外によいのだ。車重は車検証の値で2360kgもある。間違いなくヘビー級だ。でも3リッターの直6ディーゼルターボは650N・mもの大トルクをたったの1500rpmから発生する。マイルドハイブリッドのモーターも加速初期に加勢しているはずだ。ホイールベースがゴルフよりも短いから、基本的に曲がりやすいし、前後重量配分は1190kg:1170kgで、ほぼ50:50を実現してもいる。
全高は2mまであと3cmで、おまけに重そうなルーフラックにファブリックルーフ(2万6000円とお値打ちに思えます)という名のキャンバストップを装着している。重心はいかにも高そうだ。ところが、トレッドが前:1700mm/後ろ:1685mmもある。
ちなみに先般試乗させてもらった「ランボルギーニ・ウラカン テクニカ」はホイールベースがゴルフと同じ2620mmで、前後トレッドは1668mm/1624mm。なんとディフェンダー90のほうがショートホイールベースでワイドトレッドなのだ。
コーナリング時も電子制御のエアサスの貢献は大きい。こんなに背が高いのにロールはごく穏やかで、高い着座位置での不安感がまるでない。足腰が実にしっかりしている。ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ、と優雅にワルツを踊るような感じで長尾峠を上り、そして下ってみせた。これはドライバーズカーである。
1980年代末に登場したベントレーのターボモデルを評して「スーツを着たヘビー級ボクサー」という表現があったけれど、それにならってこう呼んでみたい。
「サファリジャケットを着たヘビー級ボクサー」。これは欲しい! ヘミングウェイが生きていたら買っていると思うな。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ディフェンダー90 X-DYNAMIC HSE D300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1995×1970mm
ホイールベース:2585mm
車重:2360kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/5000rpm
モーター最大トルク:42N・m(4.6kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)255/60R20 113H M+S/(後)255/60R20 113H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:--km/リッター(WLTCモード)
価格:955万円/テスト車=1186万1702円
オプション装備:ボディーカラー<フジホワイト>(0円)/エアサスペンションパック(34万1000円)/WiFi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ClearSightインテリアリアビューミラー(11万9000円)/20インチ“スタイル5098”ホイール(8万2000円)/ステアリングホイール<ノンレザー>(0円)/ヘッドアップディスプレイ(7万7000円)/ファブリックルーフ<格納式>(2万6000円)/キャビンウオークスルー<センターコンソールなし>(0円)/シグネチャーグラフィック<収納スペース付き>(2万2000円)/プライバシーガラス(8万5000円)/ホイールロックナット(9000円)/マトリクスLEDヘッドライト<シグネチャーDRL付き>(11万1000円)/アクティビティーキー(6万円)/アドバンストオフロードケイパビリティーパック(20万1000円)/オフロードパック(24万円)/ギアシフト<レジスト>(0円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(5万8080円)/エクスペディションルーフラック(26万0700円)/エクステリアサイドマウントギアキャリア(15万6200円)/フロントアンダーシールド(15万9500円)/ディープサイドラバーマット<90用>(3万6300円)/クラシックマッドフラップ一式(4万1932円)/ブラックフィクスドサイドステップ<90用>(18万9990円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:888km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:348.2km
使用燃料:40.0リッター(軽油)
参考燃費:8.7km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。





















































