三菱デリカミニTプレミアム(4WD/CVT)
かわいいから許して!? 2023.07.21 試乗記 三菱としては久々のスマッシュヒットとなった「デリカミニ」。その要因は一にも二にもデザインだ。ただし、少し長く付き合ってみれば、遠目には分からなかった細かなところが気になってくる。アイドルがトイレに行かなかったのは昔の話である。かわいいの破壊力
この1、2カ月、たまにしか見ないテレビをつければ必ずといっていいほど流れていたのがデリカミニのCMだ。こと国内については芦田愛菜とか橋本環奈とか広瀬すずとか、もう水も漏らさぬ鉄壁の布陣でトヨタも真っ青の出稿量を誇っていたスズキのCMと大差ない目撃率を誇っていたように思う。
……以上、あくまで個人の印象だが、そんなこんなでデリカミニのことは乗る前からすっかり知った気になっていた。メディア向けの試乗会の会場に飾ってあったあの犬キャラに年がいもなく反応してしまったのも確かだ。名前は「デリ丸。」というらしい。末尾の「。」は「モー娘。」と同様マストだという。
もうこの、まんまと宣伝部と代理店にしてやられてる感がオッさん的にはすんごく悔しいけれども、日本の日常に最も根ざした軽自動車のカテゴリーで人心を掌握するために、お嬢さんやぬいぐるみを大量投下するというのはど真ん中の戦い方だ。やれジェンダーフリーだエイジレスだとお偉いさんがご託を並べても、若さや愛らしさに対する好感の総意は絶対的なものがある。拙宅の老母はもはや息子の動向よりも大谷くんのホームランを生きる糧にしているありさまだが、彼の活躍が報じられるたびに「かわいいねえ」と女の表情をにじませる。かわいいの破壊力を思い知る次第だ。
鉄板部分には手をつけず
というわけでデリカミニ、思惑どおりじゃんじゃん売れているらしい。そりゃあ「N-BOX」とは言わずとも、5月末の発売時点では1万6000台超の受注、そして6月の販売台数は出自を同じくするスーパーハイトワゴンの「日産ルークス」を抑えて11位に登場している。やっぱり丸目が強いのか、はたまたデリカブランドのなせるところかは分からない。でも、前述した受注の6割が四駆という数字を聞くと、少なからぬ期待値がデリカの名前にもあるのだろう。
ちなみにデリカミニの位置づけは、「eKクロス スペース」の代替ということになる。スーパーハイトワゴンの「eKスペース」とそれをベースにクロスオーバー色を加えたeKクロス スペースは2020年春にフルモデルチェンジを迎えたが、折しも時はコロナ禍の入りっぱなで店頭訴求なども自粛せざるを得ない状況だった。そんなこんなでeKクロス スペースの存在も浸透しないなか、テコ入れとしてオフロード色をさらに強めたのがデリカミニというわけだ。ゆえに、eKスペースの鉄板部には一切手を加えず、前後バンパーや灯火類、フェンダーのカラーリング等でイメージをがらりと違えている。ちなみに側面のアンダープロテクター風に見える部分はオプションのデカールだ。幅を1mmたりとも広げられない軽の苦悩だが、まぁだまされてもいいかと思うところが丸目の役得だろうか。
頑張った外装を見た後だと、内装はもう少し独自の演出が欲しいなぁと感じることもあるが、ここはおのおのがお気に入りのテキスタイルでカバーを作るなど、技と工夫の見せどころでもある。最初からなんでもそろってるんじゃあ面白くないしと、「カングー」のように楽しんでもらえればいいんじゃないだろうか。
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オンにもオフにも効く足まわり
デリカミニに限らず、スーパーハイトワゴンものの室内空間の広大さにはいつ乗っても唖然(あぜん)とさせられる。特に高さ方向は意味あるの? とも思うが、子育てファミリーにとっては車内で立って着替えができるとか通学自転車も丸のみできるとかで、その利便を知ると手放せないという。いわば室内長より室内高側の要望に加えて、狭い場所での乗降や買い物袋の積み込みなどで便利なスライドドアをマストとして軽をつくればこういう形状にしかなりようがない。それこそコモディティーのなかで、微に入り細に入り意匠や使い勝手で差をひねり出しているのが現状だ。ともあれこの広さを子どものころから当たり前のように受け入れていた世代にとっては、自分が適齢期になったところで、狭苦しいセダンやクーペには目もくれないわけである。
デリカミニのデリカたるゆえんである四駆モデルはFFモデルより17mm外径が大きい165/60R15のタイヤを標準設定として、計算上、最低地上高を8.5mm高めている。諸元では5mmの差となっているが、表記上の四捨五入的な差異だろう。それに合わせてダンパーを再チューニングし、縮み側はしっかり踏ん張り、伸び側は小入力でも柔らかく応答するようにしているという。これは主にオフロードでの快適性を意識したものだが、もちろんクルマの性格上、キャンプ場に向かうフラットダートのようなところを揺すり少なく穏やかに走れるようにと配慮されたものだ。
実はこのサスセットがオンロードでもドンピシャにハマっている。ロール量は多少大きめに感じるがスピードはよく管理されていて、接地感や粘り気もバランスしているから、運転していても安心感が高い。それでいて低速域では凹凸や舗装のザラ目に対しておうようで、ライバルと同等以上の乗り心地を実現している。概してスーパーハイトワゴンは高速・高負荷域でのスタビリティーを意識して硬めのセッティングになりがちなところを、デリカミニは柔らかくもしっかり踏ん張る設定で物理的にも心理的にも安定性を確保している。このアシがいいから四駆を選ぼうと思わせる、デリカミニの一番の売りともいえるかもしれない。
遠乗りは苦手?
逆に一番残念なポイントがエンジン&トランスミッションだ。スーパーハイトワゴン+四駆とあって車重は大台超えの1060kg。「ヤリス」のハイブリッドと同じなのだから、それを660ccで引っ張ろうというのはさすがに無理がある。マイルドハイブリッド&ターボがあれども低回転域のトルク不足は否めず、じんわり発進&加速でもCVTのラバーバンド感が際立ってしまう。パワーバンドをつかまえてそれなりに快活さが感じられるのは3000rpm向こうからという感じで、走行抵抗の塊となる高速域では、回転数を一定に保つパーシャルスロットルにも気遣うほどだ。
そうやって走れば燃費は当然悪いので、27リッターの燃料タンクでは行動範囲も限られるだろう。商品企画的には毎日のアシからデイキャンプくらいのところをカバーするイメージなのだと思うが、せっかく遠乗りしたくなるコンセプトで、それに伴うサスも持っているのになんとも惜しい話だ。重量といい価格といい、かわいいからでは済まされない軽の矛盾は、相変わらずスーパーハイトワゴンに堆積している感がある。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
三菱デリカミニTプレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1830mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:64PS(47kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/2400-4000rpm
モーター最高出力:2.7PS(2.0kW)/1200rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/60R15 75V/(後)165/60R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:17.5km/リッター(WLTCモード)
価格:223万8500円/テスト車=282万7220円
オプション装備:ボディーカラー<レッドメタリック×ブラックマイカ>(8万2500円)/アダプティブLEDヘッドライト(7万7000円) ※以下、販売店オプション サイドデカール(3万3440円)/フロアマット<プレミアム>(2万5960円)/ナビドラ+ETC2.0パッケージ(36万9820円)/三角停止板(3300円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2729km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:248.8km
使用燃料:21.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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