フォルクスワーゲンTロックTSIスタイル デザインパッケージ(FF/7AT)
シャレてみせても質実剛健 2021.07.09 試乗記 国内販売がスタートして以来、ディーゼル車だけがラインナップされていた「フォルクスワーゲンTロック」。遅れてやってきたガソリンエンジン搭載車の走りやいかに? 装備が充実した上級グレードでチェックした。遊んでみるのも真面目
「ビーチに革靴で来る連中だから」とドイツ人を嗤(わら)ったのは、イタリア人だったか、フランス人だったか。ずいぶんと前に聞いたハナシだから、いまではまるで事情が変わっているのかもしれないが、個人的にはそんなドイツ人の生真面目さが嫌いではない。いや、むしろ、好き。
……と、妙な書き出しになって恐縮ですが、「フォルクスワーゲンTロックTSIスタイル デザインパッケージ」を前にして、そんな冗談を思い出した。試乗車は、目にも鮮やかな「ラヴェンナブルーメタリック」のボディーカラーにホワイトルーフ。その境となるグリーンハウスのサイドには、メッキモールが弧を描いて走る。うーむ、オシャレに演出しようと、精いっぱいガンバっておる!
「この感じ、前にもあったなァ」と記憶の底をさらっていて、発見した。「オペル・ザフィーラ」のシートだ! 見ても乗ってもビジネスライクな、よくできたピープルムーバーにして、しかしやけに派手な青いシート地が使われていた。運転席に座ろうとするたび、胸の奥がくすぐったくなったっけ……。
そんな昔話を無理につなげるわけではないが、「オペル・アストラ」のミニバンがザフィーラ。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のSUV/クロスオーバーがTロックである。厳密には、同じくゴルフのSUVたる「ティグアン」の弟分と言ったほうがいいかもしれない。というのも、ティグアンもTロックも、フォルクスワーゲン グループ自慢のプラットフォーム「MQB」をベースに開発されたから。エンジン横置きモデル向けのMQBは、いまや旧型となったゴルフVIIが皮切りとなり、フォルクスワーゲンをはじめ、アウディ、セアト、シュコダと、グループ内の各ブランドに広がっていった。新しいゴルフVIIIもMQBの延長線上にあるから、まだまだ進化の余地があるベースメントといえる。
そもそもMQBは縦横に伸縮自在なアーキテクチャーだから、実はメインとなる車種を示して「○○ベース」と説明しても、あまり意味がない。せいぜいサイズ感を確認する一助と言えましょうか。Tロックの場合、ゴルフよりわずかに短い2590mmのホイールベースで、全長×全幅×全高=4240×1825×1590mmのボディーを載せる。寸法的には、ティグアンよりTロックのほうがゴルフに近い。キャラクター面では、実用SUVのティグアンに対し、Tロックは柔らかなルーフラインを持った都会派クロスオーバーといった色彩が強い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テコ入れのためのガソリン車
フォルクスワーゲンTロックが登場したのは2017年の夏。それから4年。ゴルフの世代がひとつ進んだいまも、フォルクスワーゲンとしては「Tロックにもうひと暴れしてもらわないと」といったところだろう。コンパクトSUV/クロスオーバーは、現在、最も熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられているカテゴリーである。
日本市場でもテコ入れが図られた。これまでの「TDI」こと2リッターディーゼルターボ(最高出力150PS、最大トルク340N・m)に加え、1.5リッター直4ターボ(同150PS、同250N・m)を積むガソリンモデル「TSI」がラインナップされた。組み合わされるトランスミッションは、DSGと呼ばれるデュアルクラッチ式の7段AT。駆動方式はこれまで通りFWD(前輪駆動)のみで、4WDの設定はない。
価格は、シンプルな「TSIスタイル」が355万円。白または黒のルーフトップも選べるTSIスタイル デザインパッケージが376万円。それぞれに該当するTDIより、いずれも20万円安い“お求めやすいTロック”だ。ディーゼルモデルにはある上級版「スポーツ」と「Rライン」は用意されない。
TSIスタイルと比較して、TSIスタイル デザインパッケージは215/55R17と1インチ大きなタイヤを履き、LED化されたヘッドランプ、フォグランプ、そしてパワーテールゲートを持つ。ハイビームアシストやリアビューカメラといった運転支援機能やデバイスが充実するほか、「ドライビングプロファイル機能」でドライブモードを変え、ナビゲーションシステムを含むインフォテインメントシステム「Discover Media」をオプションで装着できるのもデザインパッケージの特権だ。その場合、14万3000円が追加され、車両本体価格だけで400万円に手が届こうかという金額になるが、それでも「せっかくTロックを買うならデザインパッケージ」というのが、一般的なユーザーの判断になろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“機能”は確かにいいけれど……
ブルーメタリックにペイントされたTロックのドアを開けると、外装色に合わせたブルーのラインが入ったファブリックシートが待っている。フォルクスワーゲンらしいざっくりした生地で、座面たっぷり。ハイトレバーで高さを変えても、クッションがやや前上がりなのが個人的には気に入らないが、硬めの座り心地とあわせ、長時間乗っても「このほうが疲れにくい」というのがフォルクスワーゲンの主張だ。
気になるのは周囲に占める樹脂面積の広さで、ことにダッシュボード、グローブボックスを形成する素材の質感の低さは「ちょっとなァ……」と思う。400万円級のクルマとしては、いかなる基準をもってしてもチープに過ぎる。随所に配された、ボディーカラーに合わせた加飾パネルがむなしい。
一方、装備は充実していて、ステアリングホイールは革巻きマルチファンクションタイプがおごられ、メーター類は先進的なフルデジタルだ。ステアリングホイールに設けられたボタンで、メータークラスター内の大型ディスプレイにナビ画面を表示することも可能。センターコンソール下部には、電脳世代必須のUSB端子が用意される。
エンジンをかけて走り始めると、ガソリンエンジンのTロックは、静か。スロットルペダルを踏み増すと、かすかにゴロゴロしたフィールが強まるのがフォルクスワーゲンのパワーユニットらしい。新設された1.5リッター直噴ターボは取り立ててパンチのあるエンジンではないが、さして回さないでも必要十分な動力を供給するフラットトルクな特性で、7スピードのトランスミッションとの相性もいい。スムーズで穏やかな走りが、TSIの持ち味だ。
乗って使って「さすがはワーゲン」
もちろんドライビングプロファイルを使ってスポーツモードを選び、さらにパドルシフトを駆使して“スポーツ”な気分に浸ることもできるが、オシャレ志向のTロックとしては、ノーマルモードのまま、時にシフターをSポジションに入れてエンジンブレーキを利かせるくらいがちょうどいい。
なお、Tロックの4気筒ターボは、状況によって2気筒を休止させるアクティブシリンダーマネジメント機能を備えるが、おとなしく高速巡航を続けていても、気筒数の切り替えを感じたことはなかった。カタログ燃費は、15.7km/リッター(WLTCモード)とされる。
「オシャレだけど、しっかりモノ。」とカタログに記載される通り、ほどよく実用的なところも同車の美点だ。試しにリアシートに座ってみると、さすがはワーゲン。座面の高さは適正で、クーペ寄りのスタイルでも頭上には余裕あり。これなら大人が座っても不満が出ないだろう。センターに長尺物を貫通させて収納できるトランクスルーが備わるのもポイントが高い。
手ごろなサイズで、街乗りがストレスにならないフォルクスワーゲンTロック。ツートンカラーも楽しいが、都会派を気取ってオシャレを自慢するより、むしろ「意外と使えるんだぜ」と実用性を示したりすると、オーナーの好感度が上がりそう。ただし、ビーチに革靴を履いていくのは、やめておいたほうがいいかもしれない。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックTSIスタイル デザインパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:376万9000円/テスト車=393万9300円
オプション装備:Discover Mediaパッケージ(14万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:711km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:137.2km
使用燃料:10.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.3km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
























































