ホンダADV150(MR/CVT)
Fun Fun Fun ! 2020.07.22 試乗記 個性的なデザインをまとうホンダの新型スクーター「ADV150」。しかし、カッコだけの小型バイクと侮るなかれ。それはあらゆる道が“遊び場”に感じられるほどの、最高にファン・トゥ・ライドな一台だった。単なる着せ替えモデルじゃない
テスターである後藤の場合、二輪は完全に趣味の乗り物だと考えていて、便利なコミューターであるスクーターにはあまり食指が動かなかった。ところがADV150に関しては話が別。遊び心が感じられるデザインだし、オフもそこそこに走ることができそうだから楽しみ方の幅が広がる。150という排気量と車体サイズも使い勝手が良さそう。キャンプに出かけるときはピックアップトラックに積んでいって、現地での買い物や近所の散策などに使ったら楽しそうだなとイメージが膨らんでいった。
ADV150は、人気モデル「PCX150」をベースとしてアドベンチャーなイメージと装備を与えられたマシンである。といっても単に外装を変えただけではない。車体、足まわり、エンジンまで約90%のパーツをADV150のためにつくり直している。エンジンは、PCX150をベースとして中速域のトルクを重視。駆動系のセッティングと給排気系のセッティングを変更している。その結果、ストリートでは走りには定評のあったPCX150よりも、さらに力強く、キビキビとした走りが可能になった。
停止状態から60km/hくらいまでの加速は気持ちがいい。速度がのっていくに従って少しずつ加速力を増していく。回転が上がっても不快な振動はなくスムーズそのもの。都心の幹線道路などを走る程度なら十分過ぎるくらいの動力性能を持っている。
ストレスフリーで付き合える
そのままスロットルを開け続けると60km/hを超えたところから加速力は少しずつ鈍ってきて、100km/hあたりになると速度の上昇はゆっくりになってくる。例えば、首都高速ならクルマの流れに乗って走ることも難なくこなすけれど、東名高速などで流れが速くなってくると法定速度で走るのがいっぱいいっぱい、という感じになる。振動は少ないからそのまま走り続けても疲れはしないのだが、追い越しや登り坂になると余裕がなくなる。
PCX150でも高速道路に入れば同じような感じにはなるが、ADV150よりも若干高速域での巡航は余裕があるように思う。ただし、その差はわずか。その代わりに街中での走りの質を高めているのだから、ADV150の特性を歓迎するライダーは多いはず。そもそも、この150ccクラスを選ぶ人にとって重要なのはストリートだろう。高速での移動を重視するのであれば、もっと排気量の大きなマシンを選べばいいだけのことだ。
ストリートを走っていて感心したのはアイドリングストップのスムーズさ。停車すると短い時間でエンジンも停止するため、市街地では頻繁にエンジンが止まることになるが、信号が青になってスロットルを開けるとエンジンが静かに始動して、タイムラグをほとんど感じることなく加速に入る。試乗時は常にアイドリングストップをオンにしていたが、ゴーストップを繰り返してもストレスをほとんど感じなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これはスクーターの新常識
タイヤサイズは前後ともPCX150より太くなっているため、軽量でコンパクトな車体のスクーターとは思えないくらいの安定性がある。フロント130mm、リア120mmのサスストロークはPCX150よりも長く、このクラスでは最長。減速時にブレーキでサスを縮め、姿勢変化を利用して運動性を引き出すような走り方をすることもできた。ダブルクレードルのフレームもしっかりしていて不安がないし、ブレーキもよく利いてハードな減速をしているときのコントロールもしやすい。減速しながらタイトなコーナーに進入していくときなどは、体重移動をしておくとブレーキをリリースした瞬間にマシンがグルっと向きを変える。
小径ホイールでニーグリップができず、エンブレも使えないスクーターの場合、スポーティーに走らせようとすると(またがってニーグリップするタイプの)バイクとはまた違った繊細なテクニックが必要になることが多いのだけれど、ADV150は、高い安定性、優れたハンドリングとサスペンションによって、これまで乗ったスクーターにはないスポーツ性を発揮している。これが面白くて、交差点やUターンではいろいろな乗り方をしてしまった。ただ、試乗したマシンはサスがヘタり気味だったのか1G(静止時)でも少し沈み込んだ状態になっていた。本来の素晴らしいハンドリングが若干失われていて、乗り心地も硬い感じになっていたのが残念なところ。
このエンジンの特性とサスペンション、ワイドなオフロードパターンのタイヤはオフロードでの走りも楽しむことも可能だ。もちろん本格的なオフロードバイクのようにはいかないが、旅先で出てくる林道やちょっとしたオフロードでアドベンチャー気分を楽しむのであればこれで十分。逆にオフロードバイクだったら物足りなくなってしまうような場所もADV150だったら大冒険になる。日本のオフを楽しむのなら、これくらいがちょうどいいのかもしれない。
スクーターは便利な移動手段である。しかし、ADV150は、そんなスクーターの枠を飛び越え、いろいろな場所を遊び場に変えることができる。毎日を楽しくしてくれる乗り物なのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1960×760×1150mm
ホイールベース:1325mm
シート高:795mm
重量:134kg
エンジン:149cc 水冷4ストローク単気筒OHC 4バルブ
最高出力:15PS(11kW)/8500rpm
最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:CVT
燃費:44.1km/リッター(WMTCモード)/54.5km/リッター(国土交通省届出値)
価格:45万1000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。













































