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第98回:「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」(前編) ―レースで勝つためなら歪なデザインも許される?―

2026.01.14 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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「トヨタGR GT」(写真右)と、同車をベースにしたレーシングカー「GR GT3」(同左)。……いや、GR GT3のロードバージョンがGR GTというべきか?
「トヨタGR GT」(写真右)と、同車をベースにしたレーシングカー「GR GT3」(同左)。……いや、GR GT3のロードバージョンがGR GTというべきか?拡大

“世界のTOYOTA”の頂点を担う、「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」。話題騒然の2台のスーパースポーツを、カーデザインの識者と大検証! レースでの勝利に振り切ったGR GTの歪(いびつ)な造形は、果たしてアリや、ナシや?

2025年12月5日の発表会より、写真向かって右から「トヨタGR GT3」「GR GT」「レクサスLFAコンセプト」。
2025年12月5日の発表会より、写真向かって右から「トヨタGR GT3」「GR GT」「レクサスLFAコンセプト」。拡大
「公道を走るレーシングカー」を標榜(ひょうぼう)する「トヨタGR GT」。かつての「トヨタ2000GT」「レクサスLFA」の流れに連なるフラッグシップスポーツとされるが、優雅な意匠だった先達とは異なり、かなり武骨ないでたちとなっている。
「公道を走るレーシングカー」を標榜(ひょうぼう)する「トヨタGR GT」。かつての「トヨタ2000GT」「レクサスLFA」の流れに連なるフラッグシップスポーツとされるが、優雅な意匠だった先達とは異なり、かなり武骨ないでたちとなっている。拡大
インストゥルメントパネルまわりの広報画像。スパルタンな外装と比べると、内装は乗用車然とした上質な仕立てだ。
インストゥルメントパネルまわりの広報画像。スパルタンな外装と比べると、内装は乗用車然とした上質な仕立てだ。拡大
2022年の「東京オートサロン」より、「トヨタGR GT3コンセプト」。
2022年の「東京オートサロン」より、「トヨタGR GT3コンセプト」。拡大
清水「『GR GT』にはムダをそぎ落とした、ものすごく普通のカッコよさがあると思うんだ!」 
ほった(そうかなぁ。個人的には『マーコスGTザイロン』とタメを張ると思うんだけど)
清水「『GR GT』にはムダをそぎ落とした、ものすごく普通のカッコよさがあると思うんだ!」 
	ほった(そうかなぁ。個人的には『マーコスGTザイロン』とタメを張ると思うんだけど)拡大

市販車はむしろおまけ?

webCGほった(以下、ほった):2026年一発目の「カーデザイン曼荼羅」ですが、松の内が過ぎてしまった地域もあるので、謹賀新年のあいさつはナシ! さっそくですが、今回はトヨタのGRとレクサスのスポーツカーについて、かんかんがくがくやってみたいと思います。

清水草一(以下、清水):GR GTとレクサスLFAコンセプトだね。

渕野健太郎(以下、渕野):GR GTは……急に出てきた印象があるんですが。

ほった:何年か前に、オートサロンかなんかで「こういうの出します!」的な発表はしていましたよね。

清水:2022年だったみたい。覚えてないけど(その1その2)。

渕野:それから音沙汰がなかったですよね。

ほった:てっきりもう、お蔵入りかと思ってましたが……。

清水:トヨタはそういう中途半端なことはしないっ!(笑)

ほった:ですね。

渕野:まずはGR GTからお話したいと思うのですが、これはホントに市販車……といっていいんですかね?

清水:そうでしょう。市販モデルがGR GTで、レーシングカーが……。

ほった:「GR GT3」ですね。で、デビューは2027年の予定と(参照)。

渕野:お二人はこういうスポーツカーが好きだと思うんですけども、率直な感想はどうですか?

清水:個人的には、こういう「ほぼレーシングカー」みたいなクルマにはそそられませんけど、んでもこれは、ものすごく普通にカッコいいと思います。

ほった:ええー!?

清水さん:え? そう思わない? GR GTはレースで勝つために集中しているので、ムダをそぎ落とした結果、デザインに特徴がない。だから「ものすごく普通にカッコイイ」と。

ほった:これ普通ですかね? かなりゲ……失礼、キワモノだと思いますけど。

渕野:勝つためっていうのは、GT3規格のレースでってことですか?

清水:そうです。これはもう、レースのほうが主目的でしょう。市販車はおまけという位置づけじゃないかな。

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こんなクルマがつくれるのはトヨタだけ

渕野:つまりGR GTは、TOYOTA GAZOO Racingの……要はトヨタのモータースポーツカテゴリーの頂点であり広告塔みたいな存在ってことですね。日産でいったら「GT-R」とか、ホンダの「NSX」とか。

ほった:いや、それらはまだ市販車のほうに軸足がありましたけど、こっちは完全にレースありきの代物かなと。GR GTにしても、レースカーに内装張り付けて、ナンバーと保安部品くっ付けて、「公道を走れるのも用意しますよ」ってぐらいのものになるんじゃないかな。

渕野:なるほど。このクルマの骨格を見ると、V8エンジンを完全にホイールベースの内側に入れてますよね(フロントミドシップ)。しかもエンジンもプラットフォームも新設計じゃないですか。こういうクルマを今このご時世に出せるのは、トヨタしか考えられない。それがまず驚きです。で、このプロポーションを見て真っ先に思い浮かべたのがメルセデスの……。

ほった:「AMG GT」ですね。

渕野:その先代モデルです。あとは「SLS AMG」かな。そこらへんのプロポーションにすごく近いし、同じようなコンセプトでつくっているんだろうという印象です。ただ、AMG GTも現行型は「SL」とプラットフォームが一緒になりましたよね。だから、プロポーションも割と普通になった。メルセデスでさえプラットフォームを共用化しているのに、トヨタは、エンジンも骨格も完全新設計で出す。それがスゴい。

清水:AMG GTの現行って、もうレースに投入されてるんだっけ?

ほった:まだしてないっす。戦うのはこれからですかね。

渕野:現行型も、GT3の規格を考慮したデザインだとは思いますけど。

清水:GR GT3も、「レクサスRC F GT3」とかに代わって戦うのかな?

ほった:それはそうでしょう。WEC(世界耐久選手権)やIMSAのGTクラスに、IGTC、ニュルブルクリンク24時間レース、SUPER GTのGT300クラスなどなど、活躍の舞台はいくらでもありますからね。

「トヨタGR GT」の主要コンポーネントの搭載レイアウトと、乗員の搭乗レイアウト。
「トヨタGR GT」の主要コンポーネントの搭載レイアウトと、乗員の搭乗レイアウト。拡大
「GR GT」の総アルミ製のボディー骨格(上)と、エンジンとドライブトレイン、足まわり(下)。一台のクルマのために、これらすべてを専用に仕立てられるあたり、さすがはトヨタだ。
「GR GT」の総アルミ製のボディー骨格(上)と、エンジンとドライブトレイン、足まわり(下)。一台のクルマのために、これらすべてを専用に仕立てられるあたり、さすがはトヨタだ。拡大
2009年登場の「メルセデス・ベンツSLS AMG」(上)と、2014年登場の「メルセデスAMG GT」(下)。ともに長いノーズが特徴のFRスポーツで、GT3のレースカーがさまざまなレースで活躍している。
2009年登場の「メルセデス・ベンツSLS AMG」(上)と、2014年登場の「メルセデスAMG GT」(下)。ともに長いノーズが特徴のFRスポーツで、GT3のレースカーがさまざまなレースで活躍している。拡大
レーシングカーの「GR GT3」。
レーシングカーの「GR GT3」。拡大

カーデザインの定石をここまで破っていいの?

渕野:数値はまだ発表されてないですよね? 全高がどうこうとか。

ほった:いや、ある程度の諸元は出ていますよ。全高は1195mmです。

渕野:さすが(笑)。1195mmならかなり低い。パッと見でも低いですしね。グッドウッドで走ったものはまだカムフラージュをつけた状態でしたけど(参照)、それでも、ほかのクルマとははっきり違うプロポーションなのがわかりました。自動車デザインとして見ると、空力をすごく考えていて、それが最優先でつくられている。その結果、特にリアまわりがまったく絞られていない。

ほった:なるほど。

渕野さん:わかりやすいのがリアオーバーハングのコーナー部分ですね。なんか妙に箱っぽい。

清水:絞ってないんですね。ディフューザー効果を最大限出すためかな?

渕野:サイドの下部も、おそらく空力を考えて、まったく内側に収めたりはしていません。一般的なクルマのデザインからすると、そういうところで質感が損なわれているように見えます。そこがAMG GTなどとの決定的な違いですね。

清水:言われてみれば、AMG GTってリアコーナーとかサイドの下のほう、すごく丸め込んでますもんね。

渕野:目的が違うといえばそれまでですが、一般消費者の目には、デザイン的にやりすぎというか、少し違和感があるかもしれません。空力優先の姿勢をもうちょっと緩められたら、もっとカタマリ感の強いプロポーションにできたのかなと思うんですけど。

それと、このクルマはショルダーがリアまわりで下がってますよね。これも性能重視なんですかね? サイドのキャラクターラインの流れからすると、ショルダーやリアエンドはもっと上に持っていきたくなるはずなんですが。ここまでウエッジシェイプできていて、急にガクッと落ち込むこの感じは……どうなのかな。

清水:巨大なお尻のスポイラーにどれだけ風を当てられるか、というところを突き詰めた結果なのかな? わかんないけど。

ほった:カッコいいかといわれたら微妙ですが、このクルマだと、そういう違和感も全部「空力のためだろう」と思わせられますよね。強引な説得力があるというか。

渕野:そうなんですけど、個人的にはメルセデスのやり方、質感を出すやり方のほうが、一般的でカッコいいと感じます。そこが疑問点ではあるんですよ。

清水:私は逆に、ここまでレースに振り切ったのがすごくいいと思うんですよ。個人的には趣味じゃないけど、やっぱり振り切ってますから。それにAMG GTは、ロードカーとしてはあんまり魅力ないし、実際、人気もイマイチでしょ? フェラーリやランボルギーニの人気には遠く及ばないし、リセールバリューも低い。トヨタだって、フェラーリやランボとは絶対そこでは戦えないから、「徹底的にレース用!」って振り切った。そっちのほうが価値も出るでしょう。色気はないけれど。

2025年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」に登場した、「トヨタGTコンセプト」(写真右手前)と「GTレーシング コンセプト」(同左奥)。
2025年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」に登場した、「トヨタGTコンセプト」(写真右手前)と「GTレーシング コンセプト」(同左奥)。拡大
「メルセデスAMG GT」では、リアまわりの左右が丸く、大きく削られ、下部も内側に丸く収められている。サイドの下端も同様に、内側に折り込まれている。
「メルセデスAMG GT」では、リアまわりの左右が丸く、大きく削られ、下部も内側に丸く収められている。サイドの下端も同様に、内側に折り込まれている。拡大
いっぽう「トヨタGR GT」はご覧のとおり。左右も下部もほとんど絞りや削り込みはなく、四角張った造形をしている。
いっぽう「トヨタGR GT」はご覧のとおり。左右も下部もほとんど絞りや削り込みはなく、四角張った造形をしている。拡大
赤い線はボディーサイドのキャラクターラインと、そこから想起されるリアまわりのボディーの流れ。緑の線は、実際のリアまわりのボディーの流れだ。後者は大きく下方に落ち込んでおり、リアエンドもかなり低い位置となっている。
赤い線はボディーサイドのキャラクターラインと、そこから想起されるリアまわりのボディーの流れ。緑の線は、実際のリアまわりのボディーの流れだ。後者は大きく下方に落ち込んでおり、リアエンドもかなり低い位置となっている。拡大
上段は「GR GT」の空力の、中・下段は走行風を用いた冷却のイメージ図。リアまわりでのショルダーの落ち込みは、やはりダウンフォースをかせぐのが狙いか?
上段は「GR GT」の空力の、中・下段は走行風を用いた冷却のイメージ図。リアまわりでのショルダーの落ち込みは、やはりダウンフォースをかせぐのが狙いか?拡大
ほった「ベッタベタに低いのはいいんですけど、ボディーの厚みが後ろまで変わらないし、抑揚の変化もないので、なんかまな板みたいに感じるんですよね」
ほった「ベッタベタに低いのはいいんですけど、ボディーの厚みが後ろまで変わらないし、抑揚の変化もないので、なんかまな板みたいに感じるんですよね」拡大

これはトヨタの慈善事業だ!

渕野:確かに、レースが第一という姿勢はすごく伝わってきます。まさに商業生産の体裁をとったレーシングカーですよね。だからこそ存在感は重要で、公道でどう見えるのかが気になる。ただの箱にしか見えないのか、それともスゴいクルマに見えるのか……。

顔まわりは、ほかのGR車の比率とそんなに変わらないでしょう。幅が広くて低いだけで。“GRの頂点”という点は伝わりやすいです。

清水:なんにせよ、レーシングカーの最大公約数的なデザインなので、すごく特徴が薄く感じる。

渕野:こういうスポーツカーは形で買う人がほとんどだと思うのですが、それを考えると、どうなのかな?

清水:いやー。ここまでくると形よりブランドですよ! フェラーリやランボなら形が崩れてたってなんだって売れる。GR GTは、公道も走れる純レーシングカーという部分がブランドになるんじゃないかな?

渕野:確かに、こういうクルマを今出せるのはトヨタしかないですし、すごいのは間違いないですけど……。

清水:レースで勝つためのクルマだからね。競技車両をカスタマーに供給するのが主眼だから、カスタマーが扱いやすいようにミドシップじゃなくFRレイアウトにしたとも聞いてます。まさに滅私奉公!

渕野:トヨタのワークスが勝つためじゃなく、モータースポーツ界を活性化させるためのクルマってことですね。そこは本当にトヨタらしい。

清水:これはある意味、慈善事業なわけで、一般的なデザイン論では語れないのですよ。

ほった:慈善事業か、あるいは豊田会長の個人的な趣味かもしれませんけど。

清水:このクルマ、ほったくんはどう思うの?

ほった:そのあたりはまぁ、後編で(笑)。

後編に続く)

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

低く突き出たクサビ形のフロントまわり。左右のヘッドランプをつなぐのは、「GRヤリス」にもみられる意匠だ。
低く突き出たクサビ形のフロントまわり。左右のヘッドランプをつなぐのは、「GRヤリス」にもみられる意匠だ。拡大
こちらは、2025年のルマンで世界初公開された、液体水素で走るテストカー「GR LH2レーシングコンセプト」(上)と、2026年の世界耐久選手権に投入される「TR010ハイブリッド」(下)。「GR GT3」も含め、今後はこの“バッテン顔”が、トヨタ製レーシングカーのアイコンとなるのかもしれない。
こちらは、2025年のルマンで世界初公開された、液体水素で走るテストカー「GR LH2レーシングコンセプト」(上)と、2026年の世界耐久選手権に投入される「TR010ハイブリッド」(下)。「GR GT3」も含め、今後はこの“バッテン顔”が、トヨタ製レーシングカーのアイコンとなるのかもしれない。拡大
「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」の発表会より、トヨタ自動車の豊田章男会長。同社のモータースポーツへの献身は、自動車文化醸成のための慈善事業か? はたまた……。 
ほった「個人的には会長のワガママのほうが、いちカーオタクとしてむしろ好感が持てるんですが」
「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」の発表会より、トヨタ自動車の豊田章男会長。同社のモータースポーツへの献身は、自動車文化醸成のための慈善事業か? はたまた……。 
	ほった「個人的には会長のワガママのほうが、いちカーオタクとしてむしろ好感が持てるんですが」拡大
清水「それにしても、日本のメーカーからここまでモータースポーツ オリエンテッドなクルマが出てくるとはねぇ」 
ほった「あとはレースで、本当に勝ってくれれば! できればニュルで、本国ドイツ勢をけちょんけちょんにするところとか、見てみたいですけどねぇ」
清水「それにしても、日本のメーカーからここまでモータースポーツ オリエンテッドなクルマが出てくるとはねぇ」 
	ほった「あとはレースで、本当に勝ってくれれば! できればニュルで、本国ドイツ勢をけちょんけちょんにするところとか、見てみたいですけどねぇ」拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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