第98回:「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」(前編) ―レースで勝つためなら歪なデザインも許される?―
2026.01.14 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
“世界のTOYOTA”の頂点を担う、「トヨタGR GT」と「レクサスLFAコンセプト」。話題騒然の2台のスーパースポーツを、カーデザインの識者と大検証! レースでの勝利に振り切ったGR GTの歪(いびつ)な造形は、果たしてアリや、ナシや?
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市販車はむしろおまけ?
webCGほった(以下、ほった):2026年一発目の「カーデザイン曼荼羅」ですが、松の内が過ぎてしまった地域もあるので、謹賀新年のあいさつはナシ! さっそくですが、今回はトヨタのGRとレクサスのスポーツカーについて、かんかんがくがくやってみたいと思います。
清水草一(以下、清水):GR GTとレクサスLFAコンセプトだね。
渕野健太郎(以下、渕野):GR GTは……急に出てきた印象があるんですが。
ほった:何年か前に、オートサロンかなんかで「こういうの出します!」的な発表はしていましたよね。
清水:2022年だったみたい。覚えてないけど(その1、その2)。
渕野:それから音沙汰がなかったですよね。
ほった:てっきりもう、お蔵入りかと思ってましたが……。
清水:トヨタはそういう中途半端なことはしないっ!(笑)
ほった:ですね。
渕野:まずはGR GTからお話したいと思うのですが、これはホントに市販車……といっていいんですかね?
清水:そうでしょう。市販モデルがGR GTで、レーシングカーが……。
ほった:「GR GT3」ですね。で、デビューは2027年の予定と(参照)。
渕野:お二人はこういうスポーツカーが好きだと思うんですけども、率直な感想はどうですか?
清水:個人的には、こういう「ほぼレーシングカー」みたいなクルマにはそそられませんけど、んでもこれは、ものすごく普通にカッコいいと思います。
ほった:ええー!?
清水さん:え? そう思わない? GR GTはレースで勝つために集中しているので、ムダをそぎ落とした結果、デザインに特徴がない。だから「ものすごく普通にカッコイイ」と。
ほった:これ普通ですかね? かなりゲ……失礼、キワモノだと思いますけど。
渕野:勝つためっていうのは、GT3規格のレースでってことですか?
清水:そうです。これはもう、レースのほうが主目的でしょう。市販車はおまけという位置づけじゃないかな。
こんなクルマがつくれるのはトヨタだけ
渕野:つまりGR GTは、TOYOTA GAZOO Racingの……要はトヨタのモータースポーツカテゴリーの頂点であり広告塔みたいな存在ってことですね。日産でいったら「GT-R」とか、ホンダの「NSX」とか。
ほった:いや、それらはまだ市販車のほうに軸足がありましたけど、こっちは完全にレースありきの代物かなと。GR GTにしても、レースカーに内装張り付けて、ナンバーと保安部品くっ付けて、「公道を走れるのも用意しますよ」ってぐらいのものになるんじゃないかな。
渕野:なるほど。このクルマの骨格を見ると、V8エンジンを完全にホイールベースの内側に入れてますよね(フロントミドシップ)。しかもエンジンもプラットフォームも新設計じゃないですか。こういうクルマを今このご時世に出せるのは、トヨタしか考えられない。それがまず驚きです。で、このプロポーションを見て真っ先に思い浮かべたのがメルセデスの……。
ほった:「AMG GT」ですね。
渕野:その先代モデルです。あとは「SLS AMG」かな。そこらへんのプロポーションにすごく近いし、同じようなコンセプトでつくっているんだろうという印象です。ただ、AMG GTも現行型は「SL」とプラットフォームが一緒になりましたよね。だから、プロポーションも割と普通になった。メルセデスでさえプラットフォームを共用化しているのに、トヨタは、エンジンも骨格も完全新設計で出す。それがスゴい。
清水:AMG GTの現行って、もうレースに投入されてるんだっけ?
ほった:まだしてないっす。戦うのはこれからですかね。
渕野:現行型も、GT3の規格を考慮したデザインだとは思いますけど。
清水:GR GT3も、「レクサスRC F GT3」とかに代わって戦うのかな?
ほった:それはそうでしょう。WEC(世界耐久選手権)やIMSAのGTクラスに、IGTC、ニュルブルクリンク24時間レース、SUPER GTのGT300クラスなどなど、活躍の舞台はいくらでもありますからね。
カーデザインの定石をここまで破っていいの?
渕野:数値はまだ発表されてないですよね? 全高がどうこうとか。
ほった:いや、ある程度の諸元は出ていますよ。全高は1195mmです。
渕野:さすが(笑)。1195mmならかなり低い。パッと見でも低いですしね。グッドウッドで走ったものはまだカムフラージュをつけた状態でしたけど(参照)、それでも、ほかのクルマとははっきり違うプロポーションなのがわかりました。自動車デザインとして見ると、空力をすごく考えていて、それが最優先でつくられている。その結果、特にリアまわりがまったく絞られていない。
ほった:なるほど。
渕野さん:わかりやすいのがリアオーバーハングのコーナー部分ですね。なんか妙に箱っぽい。
清水:絞ってないんですね。ディフューザー効果を最大限出すためかな?
渕野:サイドの下部も、おそらく空力を考えて、まったく内側に収めたりはしていません。一般的なクルマのデザインからすると、そういうところで質感が損なわれているように見えます。そこがAMG GTなどとの決定的な違いですね。
清水:言われてみれば、AMG GTってリアコーナーとかサイドの下のほう、すごく丸め込んでますもんね。
渕野:目的が違うといえばそれまでですが、一般消費者の目には、デザイン的にやりすぎというか、少し違和感があるかもしれません。空力優先の姿勢をもうちょっと緩められたら、もっとカタマリ感の強いプロポーションにできたのかなと思うんですけど。
それと、このクルマはショルダーがリアまわりで下がってますよね。これも性能重視なんですかね? サイドのキャラクターラインの流れからすると、ショルダーやリアエンドはもっと上に持っていきたくなるはずなんですが。ここまでウエッジシェイプできていて、急にガクッと落ち込むこの感じは……どうなのかな。
清水:巨大なお尻のスポイラーにどれだけ風を当てられるか、というところを突き詰めた結果なのかな? わかんないけど。
ほった:カッコいいかといわれたら微妙ですが、このクルマだと、そういう違和感も全部「空力のためだろう」と思わせられますよね。強引な説得力があるというか。
渕野:そうなんですけど、個人的にはメルセデスのやり方、質感を出すやり方のほうが、一般的でカッコいいと感じます。そこが疑問点ではあるんですよ。
清水:私は逆に、ここまでレースに振り切ったのがすごくいいと思うんですよ。個人的には趣味じゃないけど、やっぱり振り切ってますから。それにAMG GTは、ロードカーとしてはあんまり魅力ないし、実際、人気もイマイチでしょ? フェラーリやランボルギーニの人気には遠く及ばないし、リセールバリューも低い。トヨタだって、フェラーリやランボとは絶対そこでは戦えないから、「徹底的にレース用!」って振り切った。そっちのほうが価値も出るでしょう。色気はないけれど。
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これはトヨタの慈善事業だ!
渕野:確かに、レースが第一という姿勢はすごく伝わってきます。まさに商業生産の体裁をとったレーシングカーですよね。だからこそ存在感は重要で、公道でどう見えるのかが気になる。ただの箱にしか見えないのか、それともスゴいクルマに見えるのか……。
顔まわりは、ほかのGR車の比率とそんなに変わらないでしょう。幅が広くて低いだけで。“GRの頂点”という点は伝わりやすいです。
清水:なんにせよ、レーシングカーの最大公約数的なデザインなので、すごく特徴が薄く感じる。
渕野:こういうスポーツカーは形で買う人がほとんどだと思うのですが、それを考えると、どうなのかな?
清水:いやー。ここまでくると形よりブランドですよ! フェラーリやランボなら形が崩れてたってなんだって売れる。GR GTは、公道も走れる純レーシングカーという部分がブランドになるんじゃないかな?
渕野:確かに、こういうクルマを今出せるのはトヨタしかないですし、すごいのは間違いないですけど……。
清水:レースで勝つためのクルマだからね。競技車両をカスタマーに供給するのが主眼だから、カスタマーが扱いやすいようにミドシップじゃなくFRレイアウトにしたとも聞いてます。まさに滅私奉公!
渕野:トヨタのワークスが勝つためじゃなく、モータースポーツ界を活性化させるためのクルマってことですね。そこは本当にトヨタらしい。
清水:これはある意味、慈善事業なわけで、一般的なデザイン論では語れないのですよ。
ほった:慈善事業か、あるいは豊田会長の個人的な趣味かもしれませんけど。
清水:このクルマ、ほったくんはどう思うの?
ほった:そのあたりはまぁ、後編で(笑)。
(後編に続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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